【再起を支える】(8)考えてもらうために 性犯罪者プログラム

 「事件を繰り返さないために、あなたはどうしますか」。福岡保護観察所の保護観察官野田採途子(さとこ)(34)が性犯罪を犯した男に問い掛けた。

 「彼女がいなくて寂しく、借金があった」と当時を顧みた男は「悩みは友達に相談します。お金は計画的に使います」と答えた。別の男は「新しい趣味も見つけます」。野田とペアを組む男性観察官が発言をホワイトボードに書き出していく。

 今春、保護観察所の会議室。再犯防止を目的にした「性犯罪者処遇プログラム」の一場面だ。2時間の授業が終わると、男たちの言葉でボードは埋め尽くされた。

 2004年、性犯罪の前科のある男が奈良県で起こした女児誘拐殺害事件を機に性犯罪者への取り組み強化が叫ばれた。06年から法務省は、心理学に基づいたプログラムを刑務所の一部と保護観察所に導入。仮釈放期間が3カ月以上の人には受講を義務付けた。

 2週間ごとに全5回。初回は観察官が対象者と面談して事件に至った経緯を振り返ってもらう。「ひどい人生ですね」と漏らした男もいる。性的興味が生まれたのはいつか。奥さんや恋人は…。濃密なやりとりが4時間続く。

 2回目からは数人のグループワーク。T、がっちゃん…などあだ名で呼び合う。プライバシーへの配慮だ。自分の考えのどこが間違っているのか、それはなぜか、どう正せばよいのかを具体的に考えていく。自身の問題点を書く宿題も出る。

 「性に興味を持つ年頃なんだし、強引ではなかった。相手を被害者とは思わない」。少女と性行為をした男は居直った。

 被害者の思いを考える4回目の授業。野田は湧き起こる怒りを抑えて聞き返す。「自分の子どもだったらどうですか」。「嫌ですけど、娘はそんなことしません」。「そうでしょうか…」。他の対象者も加わって、しばし議論が続いた。

 野田は1年前からプログラムを担当している。やるべきことを列挙したマニュアルはあるが、どう進めるかという詳しいものはない。強姦(ごうかん)、強制わいせつ、痴漢。対象者の罪も意欲も違う。ペアの観察官と綿密に打ち合わせをして臨む。先の男のように罪を自覚しない者がいればなお難しい。

 福岡地裁で1月、性犯罪の再犯により男が裁かれた。裁判員たちは、プログラムの意義を説く精神科医の2時間に及ぶ証言に聞き入った。判決後の記者会見で「再犯防止にプログラムは必要だ」と口をそろえた。

 野田も最近、警察官に知らされた。受け持った男が、また同じ罪を犯した-。刑務所でプログラムを受けた1132人のうち35人(3%)が再犯した(11年3月末現在)とのデータもある。

 「5回の授業では限界がある」。野田の表情は厳しい。小規模の観察所ではプログラムを1人で担当し時間を短縮することもある。仮釈放されて満期までの期間が短い人の受講は必須ではない。課題は山積みだ。

 5回目の授業を終えて冒頭の男は言った。「もう1回ぐらい受けたいです」。野田は思う。

 「自分の問題を考えるきっかけとして、これからの生活のために、一つでも学びがあれば」。それにはどんな言葉を掛ければよいか。一言、一言が試行錯誤だ。
(敬称略)

 ▼専門的処遇プログラム 性犯罪や覚せい剤、粗暴性の高い事件などを起こした保護観察対象者に行う心理学、教育学などの専門的知見に基づく授業。保護観察だけでは問題解決が難しく、再犯防止の観点からも不十分だとして2006年から順次導入された。例えば覚せい剤を使用した人は、定期的な尿検査と併せて薬物を断つ意義を学ぶ課程がある。10年の性犯罪の新規受講者は910人、覚せい剤は1387人、粗暴性の高い人が受ける暴力防止プログラムは274人。

=2012/04/24付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ