【再起を支える】(10)巣立つ日まで見守る 多機関連携

 「ただいまから巡回診療を始めます」。大分市にある更生保護施設「あけぼの寮」に館内放送が流れた。

 臨時の診察室となった集会室で、70代の男性は「風邪ひいて、頭から喉から何から痛い」と訴えた。「お熱を測りましょう」と看護師が応じる。

 「いつもと表情違うやん。女性にニコニコしてから」。寮の補導員、牧正勝(66)が冷やかすと、男性は「はぁい」と照れ笑いを返した。

 巡回診療は、社会福祉法人の大分県済生会日田病院(日田市)が2010年に始めた生活困窮者支援「なでしこプラン」の一環だ。外来患者に元受刑者がいたこともあり病院が持ち掛けた。毎月第4日曜の昼下がり、医師と看護師が訪れる。

 仕事を見つけたばかりの青年は、歯が痛くて夜も眠れない。「今は忙しいけ、休まんでくれって職場から言われてるんで…」。雇用主に遠慮して受診するのをためらっていた。

 重度の高血圧や糖尿病といった持病を服役中に放置していた人も少なくない。仕事を休まなくてすみ、薬も無料でもらえる巡回診療はうってつけだ。健康への意識が高まり、就労意欲も上向くという。

 「出所者を嫌がる病院もあった。病院と更生保護施設の連携なんて、昔なら考えられない」と牧は話す。

 鹿児島市の司法書士、福田英人(35)は「更生保護施設とは何かさえ知らなかった」という。いまは鹿児島県青年司法書士会の一員として年3回ほど、市内の更生保護施設「草牟田(そうむた)寮」に出向いて法律相談に応じる。

 ホームレスになる人の多くが元受刑者という事実を知り、自立できるようにと相談会を始めた。寮で暮らす多くの人が借金など法的な悩みを抱えていた。「地元に戻ると取り立てが怖い」「知らぬ間に養子縁組させられて、借金の保証人になっていた」-。

 ある男性は自宅のローンを気にしていた。「抵当がついて、もう僕の家ではないだろう」。司法書士が調べると、実兄が代わりに支払い続けていた。疎遠だった家族とも会えた。「希望ができました」。男性はいま懸命に働く。

 出所者の抱える課題はそれぞれだ。それを1人では支えられない。さまざまな職種や地域の人たちによる支援の輪が広がりつつある。

 福田は願う。「生活を立て直すことで、犯罪を重ねて刑務所暮らしを繰り返す人生から一人でも抜け出してくれれば」

 罪は消えない。でも再びチャンスはある。立ち直ろうともがく人がいて、支えようとする人たちがいる。

 少年のツヨシ=仮名=は盗んだバイクを無免許運転して保護観察処分となった。1年半ほど前から北九州市のガソリンスタンドで働いている。遅刻や欠勤が目立った当初と態度は一変した。「おとなしくなりました。夜は遊ばなくなったし」。すっきりした笑顔をみせた。

 「いまでは、なくてはならない従業員です」と経営者の男性。社会の一員として巣立つ日まで見守る。
(敬称略)

 ▼多機関連携の現状 更生保護の現場に幅広い分野の人たちが加わってきた。長崎県雲仙市の更生保護施設「雲仙・虹」は2009年に社会福祉法人が開設。作業施設を生かしたプログラムがあり高齢者や障害者に対応する。福岡県の弁護士や企業、NPO法人は少年らの就労先を探して更生させようと「非行少年更生支援ネットワーク」を11年5月に設立。少年を受け入れる事業者は当初の130社から212社に増えた。覚せい剤などの薬物や酒に依存する人の社会復帰を支える自助グループもある。

=おわり

(相本康一、久保田かおり、鶴加寿子、コラージュは大串誠寿、茅島陽子が担当しました)

=2012/04/26付 西日本新聞朝刊=

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