【裁くということ】(2)裁判官どう導くのか 見えない評議

 有罪か無罪か、有罪ならどんな刑を科すかを話し合う福岡地裁の評議。被告は19歳だった。裁判員に選ばれた会社員山岡英輔(仮名)は少年事件の流れを詳しく知らず不安だったが、休憩中の裁判長の一言で少し楽になった。

 「被告は家庭裁判所で成人と同じ刑事処分にすべきだと判断されて、ここで裁かれるのです」。大人と同じ立場なんだな、と思った。

 少年は、仲間と福岡市などで1人歩きの男性を立て続けに襲い、財布などを奪ったとして強盗致傷罪などで起訴された。

 山岡が初公判で接した少年は、短髪のスポーツマン風で背筋を真っすぐ伸ばしていた。「こんな普通の子が…」。衝撃を受けた。涙が込み上げるのを見抜かれぬよう、起訴状が朗読される間、下を向いていた。

 ただ裁判長の言葉を踏まえると、未成年だからといって特別扱いするのは抵抗があった。犯行時18歳。野球で鍛えた体は並みの大人よりもがっちりしている。写真で示された被害者の顔は大きく腫れ、強い力で蹴られたことが一目で分かった。

 裁判員たちは少年の反省を受け止めつつ、懲役刑を言い渡した。今年1月のことだ。

 この事件では主犯格の少年4人が福岡家裁から福岡地検に送致(逆送)され、裁判員裁判の対象となった。1人ずつ裁かれた。福岡地裁第3刑事部は2人に対し、懲役4年以上7年以下の不定期刑を言い渡した。

 同じ地裁の第1刑事部は残る2人に家裁へ戻す決定を出し、少年院での保護処分となった。このうち1人の公判で裁判員を務めた会社員坂本圭吾(仮名)は、公判の合間に裁判長が説明した「少年は原則として保護処分」という少年法が心に留まった。刑事処分は、少年院での更生が不可能な場合に限られる。

 法廷で証言する母の前で少年は泣き崩れ、顔を上げることができなかった。罪を悔い、立ち直る決意が伝わってきた。共犯の2人が懲役刑となったことを知ったが、あくまでもこの少年について考え、結論を導いた。

 公判を傍聴した九州大法科大学院准教授の武内謙治(少年法)は「裁判官が、少年法の原則をどう説明するかで判決は左右される」と感じた。

 裁判官は評議をどう導くのか。多くの裁判官は「法廷での検察官と弁護人の主張から冷静に判断してもらうため、極力、口を挟まないようにしています」と話す。一方で、司法修習生として何度か立ち会った男性は「強引な裁判官もいる。いろいろです」と言う。

 裁判員法は、裁判官が裁判員に必要な知識やルールを説明することを定めるが、評議のやりとりを公表することは禁じている。被告に有利な情報が正しく伝えられたかどうか、現在の制度では検証できない。

 刑務所に収監された少年から4月、弁護人の知名(ちな)健太郎定信に手紙が届いた。「自分は、なぜ保護処分じゃなかったんでしょうか」

 通常、少年院は1年ほどで退所するが、不定期刑の2人は少なくとも5年は服役する。なぜこうも違うのか。「市民感覚を生かすというが、結局は裁判官次第なのか」。もどかしさを感じつつ、知名は返事を書けないでいる。
(敬称略)

 ▼評議の秘密 裁判員法は、裁判員や補充裁判員、その経験者が評議の内容や経過を第三者に漏らした場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金を科すと規定する。裁判の公正や信頼を確保し、評議で自由に意見を言えるようにするのが目的。守秘義務の対象は(1)裁判員や裁判官がどのような意見を言ったか(2)量刑などの賛成・反対が何人だったか(3)事件関係者のプライバシー-など。判決後の記者会見などで感想や事件の概要は述べてよい。裁判官も守秘義務を負うが、違反しても罰則はない。

=2012/05/22付 西日本新聞朝刊=

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