【刑のかたち】(1)上 選別される受刑者 PFI刑務所

 タオルを巻いたペットボトルを投げると、ラブラドルレトリバーの子犬が勢いよく走りだした。室内は歓声に包まれた。

 「カムカム! そうそう、オッケー!」

 黄色いシャツに短パンの男性が叫ぶ。子犬がペットボトルを口にくわえて戻ると拍手が湧いた。

 フローリングの床に寝そべる子犬。ほほ笑む男たち。大きめのガラス窓から秋の日差しが注ぐ。

 訓練生と呼ばれる彼らは犬の訓練士ではない。

 受刑者である。

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 島根県浜田市の山あいに、民間の力も活用する社会資本整備(PFI)方式の刑務所、島根あさひ社会復帰促進センターはある。国内初の盲導犬育成プログラム「パピー・プロジェクト」が始まって5期目だ。

 5人一組で10カ月、子犬を預かる。食事や排せつの世話、訓練…。夜は当番が居室のケージに入れて見守る。

 狙いは、信頼され達成する喜びを感じてもらうこと。チーム行動で人間関係も学べる、という。

 「子どもを育てる感覚ですね」。入所3年目の受刑者サカイ(32)は「オリオン」を育てて7カ月。「外にいるときは逃げてばかりだったけど、責任感が湧きました」

 週1回指導に訪れる日本盲導犬協会の松本健太郎(38)はうなずく。「犬が介在すると人は素直になれる。1カ月で柔和な表情に変わりますよ」

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 センターに刑務所特有の高い塀はない。受刑者が暮らす収容棟や居室に鉄格子はなく、強化ガラスの窓がある。

 監視カメラは650台。居場所を示すICタグを身に着ける代わりに受刑者は1人で面会室に行ったり、共有スペースで談笑したり自由に過ごせる。覚せい剤の密輸に関わり、別の刑務所から移送されてきたイケダ(41)は戸惑った。「前の施設と違う。社会に戻るときのために自立性を求められているんでしょう」

 食事は給食業者が準備し、自動搬送システム(AGV)という箱型ロボットが各棟まで運ぶ。食べ終わった食器を箱に戻すと、ロボットは自動的に戻っていく。近年カバーされた坂本九のヒット曲を奏でながら-。《明日(あした)がある 明日がある 明日があるさ~♪》

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 同じころ、九州北部の刑務所。幹部はため息をついた。「うちに来る受刑者は不健康な若者、高齢者ばかりだ」

 PFI刑務所は「選ばれた受刑者」を収容する。島根あさひは、初犯で集団生活に順応できる者を集める。同じPFIの美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)にいたっては、60歳以下、心身に障害がない-といった基準を満たす“エリート”しか受け入れない。

 条件に合う受刑者は一般の刑務所では食事や洗濯、各工場のリーダー役を任される貴重な働き手。島根あさひセンター長の手塚文哉は「そんな不満は甘えにすぎない」と言い切るが、人材を奪われる現場は切実だ。

 それでも美祢の収容率は65%にとどまる。全国的に犯罪が減り、受刑者は減っている。定員割れは共同運営する民間業者にとってよい話ではない。美祢は一般刑務所の職員を集める見学会を開き、受刑者を移送してくれるように促す。「PFIはハードルを上げ過ぎた。今のままではもたない」と法務省関係者も認める。

 受刑者の「選別」が織りなす光と影。では、PFIの試みは再犯防止につながっているのか。(敬称略、受刑者は仮名)

 ▼官民協働のPFI方式 刑務所内の不祥事を受け、外部の目を導入して職員の意識改革をしつつ過剰収容状態だった受刑者の収容先を広げる狙いで発案。民間の資金やノウハウを活用し経費削減につながるとされる。武器使用や逃走者の確保は国家公務員が、警備や職業訓練、施設の維持管理は民間業者が担う。2007年4月の美祢社会復帰促進センターを皮切りに4カ所開所。独自の矯正プログラムや職業訓練を行う。厳しい収容者選定の結果、仮釈放率は7~9割超。一般の刑務所より高い。

=2012/10/19付 西日本新聞朝刊=

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