【刑のかたち】(1)中 民間の風「監獄」一変 「社会実験」効果は

 人生のなかで一番大切なのは-。物、思い出、人…と分野別に25項目を並べた受刑者は3人一組で語り合った。「母親」を挙げたある男性。「手紙でもう一回頑張ろうって言ってくれました。裏切れない」

 講師の勝田浩章(35)が口を挟んだ。「社会に出ると大切なものを、たぐり寄せる作業です。今度は失わないため、再犯しないために考えましょう」。車座の受刑者12人の顔が引き締まった。

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 「反犯罪性思考プログラム」という聞き慣れない指導だ。全国初のPFI刑務所・美祢社会復帰促進センターが2007年の開設時から行う独自の教育。勝田が勤める民間企業が開発した。誤った考え方や行動に気付かせ、問題に直面したときの解決法を4カ月かけて学んでもらう。

 勝田はスライドを駆使して呼び掛けた。「人生は問題解決の連続。誤った選択をしないための方法を身に付けましょう」

 当初から指導を一手に担う勝田は、かつて児童養護施設の職員だった。わが子を虐待した親が刑務所に入っても変わらない姿を見てきた。「刑務作業だけで矯正は無理。問題の根幹の心に向き合う方法を教えないとつまずく」

 「いつも逃げてきたことに気付きました」。強盗罪で服役するヤマシタ(33)は、自らと向き合う日々だ。

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 女子の訓練室は、調理台を備えた家庭科教室のよう。三角きんを着けたヨコヤマ(37)が手にしたのは、包丁。タマネギの切り方を練習した。調理技術を身に付けて、飲食業界で即戦力を目指すフードコーディネーター科の一員。「ほかの刑務所では、できないことばかりです」

 教育と並び、PFI刑務所が力を入れる職業訓練。木工、溶接といった刑務所定番の作業は影が薄い。コールセンター科、介護科…と各施設は社会や受刑者のニーズに応じた訓練を行う。

 同じ日、男子の訓練室では50人ほどがパソコンに向かっていた。全員が毎週受けるワープロと表計算ソフトの講習。“エリート”が集う美祢でも入所前は7割が無職。「技術だけじゃ駄目。社会人としての基礎力アップが必要」とセンター長の斉藤峰(たかお)は狙いを語る。

 特色あるメニューで受刑者の立ち直りを促すPFI刑務所。島根あさひのセンター長手塚文哉は強調する。「従来の金太郎あめの刑務所ではなく、受刑者ごとの対応があってしかるべきだ」

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 この夏、法務省の担当者は各PFI刑務所を訪れた。教育や指導の効果を検証するよう促した。「プログラムの実行から評価の時期になった」と迫る。島根あさひは地元の大学などと手を組み、すでに検証チームを発足させた。来春をめどに結果をまとめる。

 PFI刑務所が誕生して5年。その陰で人材不足に悩む刑務所がある。仮釈放が9割を超すPFIを出ても、再犯する人はいる。「社会実験」とも言える新しい矯正のかたちは、どのくらい効果があるか。まだ明らかではない。

 再犯率が43%と上昇するいま、法務省関係者はPFIの試みを「日本の刑務所像を探る試行錯誤」と言う。(敬称略、受刑者は仮名)

=2012/10/19付 西日本新聞朝刊=

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