【刑のかたち】(3) 堅気の道へ背中押す 脱暴力団

 目つきの鋭い男たちが教室に集まってきた。3度目の受刑となるカトウ(36)もいる。指導員が見せたのは、金銭の出入りを記録する、いわゆる小遣い帳。「少ない給料も、こうやればやりくりできます」

 10代で暴力団に入り、その日暮らしで生きてきたカトウ。一晩で50万円使ったこともある。「金銭感覚がおかしかった」と、いまは思う。

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 受刑者およそ1600人のうち、3割が暴力団関係者の福岡刑務所(福岡県宇美町)。教室で開かれていたのは、暴力団をやめるように促す離脱指導だ。2006年に始まり、福岡のように累犯者が集まる刑務所で行われている。4カ月かけて受刑者同士が語り合うなかで、暴力団の反社会性ややめる方法を学ぶ。

 カトウの20代は、ほぼ塀の中だった。「刑務所に慣れてまひした。足を洗いたかったけど、満期までただ時間を過ごすだけだった」

 「指導でも受けんと、漫画読んで、テレビ見るだけ」。首席矯正処遇官の天本浩義(52)は苦笑する。暴力団をやめたいのに行動に移せない。指導が、そんな受刑者の背中を押す。

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 受刑者の一人が作業工場から締め出される、いじめがあった。数年前、別の刑務所でのこと。暴力団を抜けようと指導を受けたからだ。「組員は“裏切り者”の足を引っ張る」とカトウも言う。

 組員が多い福岡刑務所では、離脱指導は希望者から選ぶ。指導する教育専門官も限られ、受講できるのは年20人ほど。嫌がらせを恐れて言い出せない人、日頃の態度が良くない人は選ばれない。指導に触れぬまま出所する組員が大半なのだ。

 「あいつ“Gとれ”になった」。所内でうわさが広がる。現役から元組員になり、G(ギャング)の肩書がとれたことを意味する隠語だ。

 組員かどうかで変わるのは、仮釈放。現役ならあり得ないが、Gとれなら道が開ける。福岡ではこの5年で179人が認められた。「仮釈放欲しさに、指導を利用する者もいる」と天本。組を抜けたいはずなのに、工場で組長と親しげに話し、暴力団情報が満載の雑誌を買う。「偽装離脱」を見抜くのも刑務官の仕事だ。

 指導を受けた人が社会で暴力団とかかわっていないか、国は調査していない。教育専門官は言う。「偽装までいかなくても、曖昧な気持ちで指導を受けた人、性格的に弱くて心配な人はいます」

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 「組を抜けても仕事があるのか」。受刑者が口にする出所後の不安。カトウも痛いほど分かる。2度目の出所のとき、仕事が見つからず生活に困った。3カ月後、組事務所に電話した。「おかえりー」と仲間が迎えた。「ここが居場所」。そう思い込んで戻った。

 まともに働いたことがない組員は少なくない。元刑務所長は思案する。「離脱指導と就労支援をセットでやらないと、暴力団に舞い戻るのでは」

 最近、カトウは警察の仲介もあり組を抜けることができた。「ほっとした。指導がなければできなかった」。改正暴力団対策法に暴力団排除条例。社会の厳しい目も学び、堅気になれても「組にいた、っていうのは重い」としみじみ思う。

 前を向こう。出所したら、74歳の父が営む家具店を継ぐ。人生初の目標に向かって。(敬称略、受刑者は仮名)

 ▼刑務所の収容区分 受刑者は、年齢や性別、疾患の有無、刑期や犯歴などによって収容される刑務所が分かれる。初犯が多く集められるA級刑務所や、罪を繰り返して犯罪傾向が進み、暴力団などの反社会的集団に所属する人が多く集められるB級刑務所。このほか、病気で治療が必要な人は医療刑務所、26歳未満は少年刑務所に収容される。2011年に刑務所に入った受刑者2万5499人のうち暴力団関係者は2359人(9.2%)。組員の割合は近年減少している。

=2012/10/21付 西日本新聞朝刊= 

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