【刑のかたち】(4) 自分をみつめるとき 特別改善指導

 -生まれ変わったら、どういう人間になりたいですか?

 服役直後のアンケートにフルハタ(29)はこう書いた。「大麻が合法な国の人になりたい」

 10代で大麻に手を出した。マンションの一室で栽培し、売るようになった。輪ゴムで留めた現金20万円の束を幾つも持ち歩くほど稼いだ。逮捕されたときも「どうしたら刑が軽くなるだろう」。

 罪の意識など、まったくなかった。

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 服役2年目。移送された奈良少年刑務所(奈良市)で薬物依存離脱プログラムを受けた。車座になって体験を話し合う。

 他の受刑者が語った。「もうやめようと思っても、売人から『いいのが入った』と電話があると、ついつい…」。自分も客にそんな電話をしていたな-。フルハタは少しずつ気づき始めた。

 殺人、窃盗といった犯罪と異なり被害者が見えにくい。が、自分の売った薬物によって家庭や仕事を失い、人生をボロボロにした人たちがいる。

 これが罪悪感か。その場で頭を下げた。「代わりに皆さんに謝らせてください。すいませんでした」

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 薬物犯罪は再犯の恐れが強いとされる。2011年度の矯正統計によると、覚せい剤取締法違反の罪で刑務所に入った人のうち再犯者は6割以上。06年施行の刑事施設・受刑者処遇法は、薬物離脱の取り組みを特別改善指導の一つに挙げた。

 「心の飢餓感が依存につながる。信頼関係をつくり、彼らが自分と向き合えるように支えるのが仕事です」。奈良少年刑務所で薬物離脱指導を担当する教育専門官、竹下三隆(57)は説明する。

 「教官が背中を押してくれた。人間関係とか、大事なものに気づけた」。出所したフルハタは郷里の九州に戻り、立ち直りに向かっている。

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 奈良少年刑務所は、性犯罪防止教育の推進基幹施設でもある。西日本の受刑者が集められ、グループワークを中心に罪にいたる原点を探る。手がかりは「自分史」だ。

 《小学生のとき授業を妨害して迷惑をかけた。自分はいない方がいい…》。九州から移送された30代のツムラは、学校になじめなかった幼少時から記した。同年代の友だちができず、年下の男児と遊ぶうちに性加害につながった経緯が浮かぶ。

 教育の過程で、いらだってノートを赤ペンで塗りつぶした。ひと言も口をきかない日も。ようやく「同年代の男友達をつくることも必要だ」と言い始めた。「何とかしたいという彼の思いは真剣だ」。担当の教育専門官、犬塚貴浩(39)はツムラの変化を感じている。

 心配は出所後だ。家族は引き取りを拒否。仮釈放なら保護観察所で受けられる性犯罪者処遇プログラムも、満期出所者は対象ではない。社会で疎外感を味わったら、再び道を外れないだろうか。

 子どもへの性犯罪の前科があれば、住所の届け出を義務付ける大阪府の条例が1日、施行された。大阪市長橋下徹が府知事時代「日本は生ぬるい」と提案した。前科があるというだけで監視の目にさらすことに、人権上の批判は根強い。

 犬塚が注目するのは、届け出者は府独自の支援プログラムを受講できる点だ。「彼のような人にとっては意味がある」

 塀の中と社会をどうつなぐか。模索は続く。(敬称略、受刑者は仮名)

 ▼再発防止の教育 再発防止教育の一環である特別改善指導には、薬物、性犯罪のほか、被害者の視点を取り入れた教育、交通安全指導などのメニューがある。諸外国の実施例を参考に、認知行動療法などに基づくプログラムを法務省が作成。奈良少年刑務所の性犯罪者処遇プログラムの場合、受刑者の犯罪傾向や能力に応じて7~9人の班に分け、6~10カ月間、90分の授業を週2回行う。グループワークは刑務所の教育専門官のほか、非常勤の臨床心理士などが協力してリーダー役を務める。

=2012/10/22付 西日本新聞朝刊=

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