【刑のかたち】(5) 元気な若手が世話係 高齢者・障害者

 テーマは「秋を感じること」。U字形に座るお年寄りが1人ずつ語り始めた。

 「プロ野球の日本シリーズを思い出します」

 「マツタケのおうどんで香りを楽しみました」

 それぞれの思い出に、丸刈りの白髪頭を揺らしてうなずき合う。拍手を浴びて照れる人もいた。

 輪投げもした。服役する高齢者や障害者のためのプログラム「リハビリ・スポーツ」の時間だ。

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 社会資本整備(PFI)方式の刑務所喜連川(きつれがわ)社会復帰促進センター(栃木県さくら市)には、増加傾向にある高齢者や障害者の「特化ユニット」がある。この種の施設では最大規模の定員500人。小学館集英社プロダクションが開発したプログラムを採用している。

 精神障害者にはフラワーアレンジメント、知的障害者には、ちぎり絵や粘土細工。身体やコミュニケーション能力の低下を防ぎ、社会復帰の意欲を促す狙いがある。

 「『家庭の医学』を見ながらの仕事です」。喜連川3年目の刑務官、平原長英(32)から見ると、物事の善悪を判断できる刑事責任能力を疑う者も多い。「被害者は『何でそんな人を助けるの』と思われるかもしれませんが、刑罰がふさわしくないような人もいます」

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 大分市の住宅街にある大分刑務所。「機嫌が悪いときは、おっきな子どもみたい。親ぐらいの年齢だけど」。窃盗罪で服役中のミウラ(50)の役割は介護だ。

 2009年、全国の刑務所で初めてバリアフリー棟を建てた。廊下や階段に手すりを付け、車いす用シャワー室もある。ミウラのような元気な者が認知症の高齢受刑者などの世話係を務める。

 おむつを替え、排せつを手伝う。お風呂に入れる。「最初はご飯が喉を通らなくて…。『ありがとう』と言われると世話のしがいもあります」

 65歳以上は収容者の1割、120人ほど。ぼけ防止の「脳トレーニング(脳トレ)」ブームに火を付けた小型ゲーム機も活用している。

 昨春新設した高齢者・障害者用の「16工場」では、背中を丸めて袋ののり付けをする受刑者の姿があった。「慌てなくていいから。丁寧に」。担当する刑務官、植野剛(48)は口癖になった。

 「やりたくない」。駄々をこねる者もいる。顔色が悪い受刑者に「どうしたん?」と声を掛けると、「(昼食の)汁がぬるかった」。

 「気配りが大変。若手のときはこんな仕事をするなんて想像もできなかった」。植野の実感だ。

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 口紅を塗り、おしろい代わりに、あせもを防ぐパウダーを付け浴衣に身を包む-。女子刑務所らしい姿が見られた盆踊り大会を、麓刑務所(佐賀県鳥栖市)は数年前に取りやめた。高齢の受刑者が増え、熱中症が心配になったためだ。

 病気を抱える者も少なくない。「問われるのは保安より健康管理」という声も。ある若手刑務官は「巡回時に受刑者が布団を頭までかぶっていると、呼吸しているか不安になります」。救急法を学ぶ刑務官もいる。

 かつては、娑婆(しゃば)に残した男をめぐって受刑者同士、壮絶な“女の闘い”もあったとか。

 「でも今のけんかは…」と幹部。「ウンチを漏らして片付けないとか。老人ホームみたいね」 (敬称略、受刑者は仮名)

 ▼受刑者の高齢化 受刑者の総数は2006年をピークに減少しているが、60歳以上は09年まで増え続け、以降11年まで1万人余と横ばい。11年に入所した60歳を超す受刑者の罪名は窃盗が半数を占めた。3年以下の懲役・禁錮が85%。3回以上の服役者は6割に上り、刑務所を出ても再び罪を犯して戻る高齢者は後を絶たない。大分刑務所の受刑者の最高齢は87歳(10月の取材時)。障害のある受刑者も目立ってきたことから知的障害者のための農業・園芸作業場をつくるという。

=2012/10/23付 西日本新聞朝刊=

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