【刑のかたち】(9) 繰り返さないために 地域との共生

なだらかな斜面に広がる茶畑。水色の作業服の男たちが鍬(くわ)を持ち、耕運機を動かしていた。遠くに背の低いフェンスが見える。

 「子どもでも乗り越えて逃げられますよ」。地元農家の佐々木玲慈(れいじ)(55)は指をさして笑った。

 島根県浜田市の山あいにある農業団地。作業服の男たちが服役する社会資本整備(PFI)方式の刑務所・島根あさひ社会復帰促進センターから10キロほど離れている。

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 受刑者を塀の外に連れ出す構外作業は珍しい。9ヘクタールの敷地にはニンジンやホウレンソウを育てるビニールハウスもある。受刑者20人が週4回、朝から夕方まで汗を流す。居場所を示すICタグを身に着け、刑務官や民間警備員が立ち会う。

 佐々木は指導員として農作業を教える。「農業は人づくり。地味だけど忍耐や協力する大切さを感じてもらい、更生のお手伝いになれば」

 当初は不安だった。けれど気持ちが通じるようになると受刑者も「普通の人」だった。オレオレ詐欺犯とされる受刑者に「被害に遭わんためにどうしたらいい?」と聞くと、「まず人に相談することですよ」。

 雇いたいと思った者もいる。恐ろしい気持ちは薄らぎ「なぜこの人はここにいるのか」と不思議に思うようになった。

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 受刑者の更生に農業を生かす発想は7年前、小泉純一郎首相(当時)が閣僚懇談会で言及し、注目を集めた。島根あさひで具体化したのは、運営する民間企業と地元農家からの提案が採用されたからだ。

 地域との共生-。スローガンに沿う独自の取り組みには「文通プログラム」もある。受刑者と住民が手紙をやりとりする。趣味の話から社会復帰後の不安、家庭の問題…。子や孫ほど年齢差がある受刑者の悩みに、住民たちが思い思いの返事を書く。

 「私たちに何かできることはないか、と住民側から出たアイデアです。身寄りがない受刑者もいるだろうと」。センター長の手塚文哉は打ち明ける。開所前、PFI刑務所構想の法務省担当者として毎月のように地元を訪れ、住民と話し合いを重ねて始まった。

 PFI第1号の美祢社会復帰促進センター(山口県)も保育園を併設し、地元の子どもを受け入れている。近所の女性(84)は「最初は怖かったけど、いまは全然。地域になじんでますね」。

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 刑務所は「迷惑施設」として敬遠される存在だった。受刑者が脱走した1月の広島刑務所のような事件が起きると地域の不安は増す。住民は受刑者をモンスターのようにみなし、刑務所は保安を重視して扉を閉ざす。

 だが、受刑者はいずれ社会に戻ってくる。再犯を防ぐため矯正や職業訓練に地域を巻き込む新しい「刑のかたち」は、矯正の未来像を占う「モデルケース」(手塚)となるかもしれない。

 佐々木が手掛ける茶畑の本格的な収穫はまだ先だ。参加する受刑者の数も、まだ限られている。「でも何より大切なことは、新たな犯罪被害者を生まないこと」。受刑者が育てた茶葉を全国に出荷する日を、佐々木は心待ちにしている。(敬称略) =おわり

 ▼開かれた矯正施設 法務省はPFI刑務所の立ち上げに伴い「国民に理解され、支えられる刑務所」という基本理念を掲げた。受刑者による公園清掃、草刈りを実施する施設もある。島根あさひ社会復帰促進センターは「社会復帰支援コミュニティ」をめざし、交流拠点となるビジターセンターや子育て支援施設を併設。施設内の診療所を地域住民に開放している。民間職員約390人のうち370人が地元採用。地元の農産品が納入され地域経済の活性化にも一役買っている。

(相本康一、久保田かおり、一瀬圭司、コラージュは大串誠寿、茅島陽子が担当しました)

=2012/10/27付 西日本新聞朝刊=

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