【少年院のいま】(1)学びの場 模索の日々

 秋の夕日に 照る山紅葉(もみじ)

 福岡市の特別養護老人ホーム。手拍子に合わせて口ずさむ車いすのお年寄りたちのそばに、あどけなさの残るエプロン姿の少年がいた。福岡少年院(福岡市南区)の院生だ。

 腰を低くし、顔を見て一緒に歌う。お茶をスプーンですくって口に運んであげる。「礼儀正しいし一生懸命。職員にも見習え、と言っているぐらいですよ」。施設長は笑った。

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 約140人を収容する全国四大少年院の一つ、福岡少年院には「職業補導」の一つとして介護サービス科がある。130時間の講義・実習を受ければホームヘルパー2級の資格が取れる。院外での実習は4日間。食事や入浴の介助などをする。少年院の法務教官は私服で付き添う。

 ユキヒロ(18)は当初講義についていけなかった。「朝起きるのもつらかった」。教科書は4冊。用語が難しく、寮に戻っては辞書を開いた。

 勉強なんてしたことがなかった。高校1年で中退。仲間と自動販売機を壊して金を盗み、バイクで暴走した。少年院入りが決まり「人生終わったと絶望した」。いまは「あのとき捕まらなかったら、落ちるところまで落ちていた」と思う。

 お年寄りの介護は教科書通りにいかない。ドライヤーで髪を乾かすとき「動かないで」と言っても動かれる。無視されることもある。根気よく話し掛けると「あんたが言うならそうする」。

 ユキヒロは考えた。「相手がどう思っているのか、気付くことが大事みたい」

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 「では赤ちゃんを沐浴(もくよく)させましょうね」。法務教官の諸石由美子(62)が言うと、少年たちは人形を抱き、首を支えて洗い始めた。

 福岡少年院が1999年から続ける育児福祉実践教室だ。狙いは命の大切さを学ばせること。「酒鬼薔薇(さかきばら)」を名乗る14歳の少年が逮捕された97年の神戸市連続児童殺傷事件が念頭にあった。「弱い人の立場を考えてほしい」と諸石。週1回、妊娠中のおなかの重さを体験できるジャケットを着て階段を上り下りし、おむつ交換も学ぶ。

 教官歴28年の諸石に、最近の少年は幼く映る。「子どもを持つと夫婦は別れないってほんと?」「親権って父と母どっちが持ちやすいの」。答えづらい質問も飛ぶ。

 「自分の家庭と重ね合わせる子が多い。命の大切さだけでなく、生き方を考えるきっかけになればいい」と諸石は話す。

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 少年院の窓ガラスを割って暴れる少年がいる。出院後、再び非行に走る者もいる。ヘルパーの資格を取っても職に就ける保証はない。取り組みが非行少年すべての心に響くとは限らない。

 それでもあきらめないのは、立ち直る少年も確かにいるから。少年院は、刑務作業を軸に据える刑務所とは異なり「矯正教育を授ける施設」(少年院法1条)。全寮制の学校に例えられる。

 達成感を味わう学びの場は大切だと、ベテラン教官は言う。「少年たちは怒られることに慣れている。認めてもらい頑張る気持ちをどう育むか」

 訪問介護実習で、ユキヒロは86歳の女性から窓拭きを頼まれた。「男の人は背が高いからありがたいわ」と感謝された。戦争の話を聞かされた。

 帰り際に「また来てね」と声を掛けられた。自分が少年院生で、もう来ることはないとは明かせない。「また来ます」と無理に笑顔をつくった。

 「苦しかった。もう一回、おばあちゃんの手伝いがしたい」

 無事に資格を取り、院から表彰されたユキヒロ。この秋、家族の待つ家に戻った。少しだけ、胸を張って。 (敬称略、少年は仮名)

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 虐待を受けた少年、出会い系サイトで知り合った男に薬漬けにされた少女、発達障害が疑われる子…。非行少年の姿は社会を映し出す。彼らと向き合う少年院も試行錯誤のさなかにある。少年と教官たちのいまを追う。

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 ▼少年院の職業補導 少年院生は矯正教育の一環として、生活指導や教科教育と並び職業補導を受ける。福岡少年院の場合、介護サービス科のほか自動車整備科、溶接科、パソコン事務科、クリーニング科、農園芸科の計六つ。希望や適性を踏まえて配属が決まる。介護サービス科は6カ月かけて10~15人ずつが受講。実習は施設介護と訪問介護がある。お年寄りに少年院生であることは説明しない。専用の教室には介護用のベッドと浴槽も備える。介護の仕事に就くために希望する者は多いという。


=2012/11/06付 西日本新聞朝刊=

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