【少年院のいま】(3)親子の絆 心をとかして再構築

 「どれだけ迷惑を掛けたか、分かってるの」

 せきを切ったように、母親はカツヤを責め始めた。福岡少年院(福岡市南区)の面会室。入院して10カ月。初めての親子の対面だった。法務教官の加藤信行(55)=仮名=は母親の言葉を遮り、カツヤに促した。「聞きたいことを、聞いたら」

 カツヤは口を開いた。

 「…見捨てられたと思った。何で、面会に来てくれんかった?」

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 カツヤは父親から、しつけと称する暴力を振るわれて育った。家出を繰り返し、有名なワルになり少年院へ。何度か母に手紙を書いたが、なしのつぶて。他の院生には月1回程度ある保護者の面会も、カツヤには誰も訪ねてこない。

 出院の日が近づき、その準備のために加藤が指導する寮に移った。加藤はカツヤと語り合った。

 「許せる、許せないはあるかもしれない。だけど、親がいないと自分もいないんだよ」。両親を真っ向から否定するカツヤの心をとかしたいと加藤は思った。

 夏の日。院の強い働き掛けもあって、母親は姿を見せた。会いたくないとごねるカツヤを説き伏せて、引き合わせたのだった。

 面談の終盤。母親はこう言った。「行きたくても、行けんかった…。会えて、よかった」

 カツヤも短く答えた。「迷惑を掛けたことは、分かってる。ごめん」

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 「私たちと二人三脚で、お子さんの成長を支えてください」。福岡少年院の院長日下部(くさかべ)隆は9月の保護者会で、入院間もない少年たちの親に呼び掛けた。「二人三脚」を強調して‐。

 福岡に限らず教官は、保護者と関係を築くのが難しくなったと嘆く。院からの電話に出ない。郵便物を送っても無反応。注意をすると「何の権限があって、そんなこと言うんか。おまえ、何様か」と切れる親もいる。

 「最近、親が子どもっぽい」とはベテラン教官の評。面会に来ても「楽しくやってる?」と世間話。「長期のキャンプに預けてるんじゃないんだぞ」。叱り飛ばしたくなることもあるという。

 成長の過程にある少年の立ち直りに、親の力は欠かせない。少年院法は5年前の改正で「院長は保護者への指導や助言ができる」との文言が付け加えられた。

 福岡では親への連絡帳「Com(コム)」で、院での日々が分かるよう教育や生活を伝え、成長ぶりも記録する。遠方の子も多くいる中津少年学院(大分県中津市)は今月、沖縄で初めての出張保護者会を開く。それぞれの少年院は折に触れ、子どもとの絆を再構築するよう親を諭している。

 養育してくれる親がいない子もいる。ある少年院は、虐待や貧困、離婚などにより、児童養護施設などで育てられた少年が半数を占める。

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 カツヤはこの秋、院を巣立った。面談のあと母に2度便りをしたが、やはり返信はなかった。いまは施設で暮らす。「もっと、いろんな働き掛けができれば…」。加藤は悔やみつつ、カツヤを案じる。

 家族のかたち、親子の関係はさまざまだ。福岡少年院の平均在院期間は10・5カ月。少年の矯正と、併せて親への教育。限界はあるが「できるだけのことをしたい」と加藤は言う。 (敬称略、少年は仮名)

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 ▼少年たちの家庭環境 少年院に入った少年の家庭環境をみると、実父母がそろっている子の割合は2000年は50・8%(男子51・7%、女子43・0%)だったのに対し、10年は34・5%(男子35・2%、女子27・5%)と年々下がっている。初めて少年院に入った子で実父母がいるのは35・6%、2回以上の入院者は29・5%(10年)。父がおらず実母のみの割合は増え続けており、10年は男子が38・2%、女子は41・6%=いずれも犯罪白書から。福岡少年院で実父母がいる子の割合は28%、実母のみは46%。


=2012/11/08付 西日本新聞朝刊=

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