【少年院のいま】(4)被害と加害 転んでも立ち上がる

 覚せい剤を覚えたのは中学3年の冬だった。家出したカナは福岡市・中洲のネオン街に立っていた。ナンパしてきた客引きの男の家に転がり込むと、その夜、薬を勧められた。「それから、手放せなくなりました」

 居候した数カ月。日に何度も注射を打った。眠れない。体重は30キロ台に落ちた。ホストクラブの遊びを覚え、男に内緒で性風俗店で働きだした。

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 いじめを受けて小学校のほとんどを不登校で過ごした。中学には1カ月だけ通った。「ヤンキーにあこがれて…」。極細の眉毛にジャージーで夜の街を出歩いた。

 携帯電話の出会い系サイトにはまったのは、そのころだ。素性を知らないイケメンと毎日ドライブ。「みんなより先に、大人に近づく優越感があった」。心配する両親とは口を利かなかった。駅のトイレで夜を明かしたこともある。

 援助交際の相手には会社の社長もいた。サイトで出会った数百人の男の携帯番号を「金、ご飯、寝床、足」の四つに分類した。

 卒業式も出ていない。友達から「母ちゃん、来てたよ」とメールで知らされた。高校に進まず大阪・ミナミの風俗店へ。月に350万円稼いでいた15歳の秋、警察に捕まった。飲んだ明け方の職務質問。バッグに注射器を忍ばせていた。

 家を出て1年ほどたっていた。罪を犯す可能性の高い虞犯(ぐはん)少女として、九州唯一の女子施設、筑紫少女苑(福岡市東区)に収容された。

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 「少女が薬物を始めるには、決まって男の存在がある」。筑紫少女苑の法務教官藤原尚子(38)は指摘する。

 「女子は加害者である一方、被害者の側面も強い」とは、ある医療少年院の精神科医の実感だ。

 女子施設に、カナのような子は珍しくない。

 おじから性行為を強要された少女がいた。恋人の子を身ごもった直後に別れ、次に付き合ったのは覚せい剤の売人をするヤクザだった。

 少女は、傷害や窃盗事件を起こした記憶を失っていた。薬物と恋人への依存、それに虐待された悲しみが重なり合って精神を病んでいた。

 「愛情に飢えた子、すぐに甘える子が多い」。多くの少女に接してきた藤原はしみじみ思う。

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 カナはいま22歳。少女苑を出て5年たった。実は退院半年後に再び家を出て、ホストクラブに通った。出産も経験した。

 昨年の夏、恋に落ち、今年結婚した。子どもも授かった。「何でも一番に俺に相談しろ」と言ってくれる夫といると、幸せを感じる。「立ち直ったのは、旦那と出会ってからです」

 もうひとつ。少女苑で剣道が得意な苑長先生がいつも言っていた話。

 「人生は七転び八起きやからね。頑張れ、頑張れるやろ。転んでも、転んでも、立ち上がれるんよ」

 担任の教官に「あなたは恵まれているのよ」とたびたび諭されたことも思い出す。毎月面会に来てくれた両親。誕生日にカードを送ってくれた家族。「大人を信用していなかった」。いま、ようやく分かる。支えられていることを。

 「でも、誰にも『ありがとう』は言えていないです。照れくさくて…」。取材の終わりに、カナははにかんだ。 (敬称略、少女は仮名)

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 ▼非行内容の特徴 2011年に少年院に入った少年の非行内容は、男子は窃盗が40%、傷害・暴行(傷害致死を含む)20%、暴走行為などの道交法違反が8%。女子は窃盗と傷害・暴行、覚せい剤取締法違反が約20%ずつ。家出や薬物、売春などの問題行動があり今後犯罪に関わる可能性が高いとみられる虞犯(ぐはん)が11%。年齢を重ねると男女とも傷害・暴行の割合は減る。女子の18歳以上では覚せい剤取締法違反が41%と圧倒的に多くなり、15歳未満の10倍になる=矯正統計による。


=2012/11/09付 西日本新聞朝刊=

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