【少年院のいま】(6)二つの顔 ともに成長していく

 「先生、話を聴いてください」

 3年前、福岡少年院の法務教官になった大迫政範(30)は、面接を希望する少年が多いことに驚いた。以前、臨時教員をしていた高校では、教師はどちらかというと煙たがられていたからだ。

 二人きりになると少年たちはよくしゃべる。出院後の不安、家族との関係、不良仲間との距離感…。1時間なんてあっという間に過ぎる。

 「目標を持てば魅力的な人間になれるぞ」。言葉を掛けながら、大迫は一緒に考え込む。

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 「個別面接こそ法務教官の仕事」。福岡少年院次長、服部達也は言う。

 大迫の場合、英語と体育の教科を受け持ちながら、主に中学生が暮らす寮の担任を同僚4人と務める。朝食から就寝まで指導し、折に触れて少年の悩みを聴く。5日に1回の宿直明けは非番となるが、すぐに帰宅できる日はまれだ。

 「ここまでやるのか」。少年院に勤務する前に刑務所で17年働いた教官の坂本忠義(55)=仮名=は、工場担当、教育担当といった役割分担が明確な刑務所との違いに戸惑った。「刑務所はドライで大人の付き合いという感じ。少年院は一対一のつながりがぐっと深い」

 家庭環境に恵まれず、十分な愛情を受けずに育った子が多い。「父親的な存在になれれば」と坂本。指導に熱が入る。

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 刑務所の刑務官と同様に公安職に位置づけられながら、教育者としての顔も持つ法務教官。その目的をはき違えた姿が2009年春、一人の少年の告発によって明らかになった。広島少年院暴行事件である。

 「うそをつくなら舌を切る」とはさみで舌を挟む。「生きててもしょうがないだろう」と洗剤容器を口に押し付ける‐。少年への暴行・虐待が常態化していたことが発覚し、教官5人が逮捕された。先進的な矯正教育の実践者として注目された処遇部門のトップも含まれていた。

 「少年と丁寧に向き合うよりも、抑えつける方が楽。次第に、自分たちに実力があるから少年が従うんだと勘違いしてしまった」。事件後、広島少年院の院長を務めた日下部隆(現・福岡少年院院長)は振り返る。

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 「先生、来たよ」。福岡少年院にこの夏、元院生が妻子を連れて訪ねてきた。教官たちは再会を喜んだ。こうしたことは珍しい。学校の教師には同窓会もあるが、法務教官は社会に出た“教え子”とは関われない。成果は見えにくい。

 教官を品定めし、態度を変える少年がいる。面接で涙を流しても、翌日また規律違反をする少年もいる。「裏切られるとしんどい。この仕事、長くもつかなと思う」。大迫はため息をつく。

 教官に殴り掛かり、窓ガラスを割って暴れた少年がいた。大迫は面接を重ね、一緒にキャッチボールもした。「この子は社会に出てから大丈夫だろうか」。不安を抱えて送り出した。

 最近、その少年が再犯せずに保護観察期間を終えたと連絡が入った。

 大迫は泣いた。「頑張る子がいるから、自分も頑張れるんですね」

 少年が巣立つ日まで、教官も共に成長していく。 (敬称略)

 =おわり

(相本康一、久保田かおり、一瀬圭司、コラージュは大串誠寿、茅島陽子が担当しました)

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 ▼広島少年院事件と法改正 法務教官5人が数十人の院生に暴行と虐待を繰り返し、職場ぐるみで黙認していたとされる事件。5人は特別公務員暴行陵虐罪に問われ、4人は有罪が確定、処遇部門のトップだった元首席専門官は上告中。国は今春、第三者機関によるチェック制度の新設を柱にした少年院法改正案を閣議決定した。少年への身体検査や手錠使用の要件、処遇に不服があれば少年が法務相に救済を申し入れられることを明記している。国会で成立すれば、全面見直しは1949年の施行以来初めて。


=2012/11/11付 西日本新聞朝刊=

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