【発達障害 働くために】特性に応じて職業教育

 ■生きる働く■ 
 作業台で文書を仕分けていた生徒が、1枚を片手で教員に差し出した。教員が「人に物を渡すときはどうするんですか」と尋ねると、生徒は両手で持ち直し、おじぎした。

 福岡市博多区の市立博多高等学園は、軽度の知的障害がある100人が通う特別支援学校高等部。生徒の約2割に発達障害がある。社会に出て働くために必要な技能や生活習慣の育成に重点を置いている。長谷川雅寛校長は「登校するとまずタイムカードを押す。学校生活そのものが職業教育です」と語る。

 生徒たちはこの日「作業学習」に取り組んでいた。「流通・事務」など4班に分かれて週2日行う。食品・接客班は実際に働くのと同様に、シフォンケーキやパンを作り、校内のカフェで販売する。発達障害児は「常識」を自然と身に付けるのが苦手とされる。繰り返しの訓練で、周囲と協力することや笑顔の接客など働く基本姿勢を学ぶ。

 企業実習も3年間で1人7、8回行う。「働き続けるためには、自分に合った企業を見つけるマッチングが大切」(長谷川校長)。教員総出で開拓した実習先は2004年の開校以来、620社を超える。その成果もあって就職後の定着率は8割と高い。今春は卒業生30人のうち28人が就職。2人は正社員採用だった。

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 福岡県立嘉穂総合高校の分校で、嘉麻市にある大隈城山校(昼間定時制)は、5年前から発達障害支援に力を入れてきた。保護者と話し合いながら、障害者手帳(療育手帳や精神障害者保健福祉手帳)の取得を後押ししている。在校時から福祉サービスとの接点をつくっておくのが狙いだ。

 支援を担当する橋本和朗教諭は「『障害』という言葉への抵抗感から、初めは手帳を取るのを嫌がる保護者もいる」と話す。だが、サポートのないまま進学し就職活動でつまずいたり、早期離職したりして、うつなどの2次障害を起こすケースも少なくない。「社会に出て、傷ついてからでは遅いのです」

 今月入学した27人のうち8人に発達障害があるが、手帳を持つ生徒はいない。一方で2、3年生(計41人)は障害のある19人全てが取得済み。地域の障害者就労・生活支援センターなどで、職場実習や日常生活のサポートを受けている。こうした態勢が卒業後も生徒たちを支えていく。

 「学校の役割は働く人を育てることにある。能力を埋もれさせず納税者にすることは、本人だけでなく、社会のためでもある」

 橋本教諭は、障害の有無にかかわらず、個々の特性に応じた進路支援が必要
だと考えている。

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 だが現実は、手厚い支援を受けられる生徒は一部に限られている。学校教育法では、知的障害のない発達障害は特別支援学校の受け入れ対象外。多くは一般の高校に進むが、支援態勢には濃淡がある。

 同県春日市の明美さん(50)=仮名=は「障害に理解のない学校もあり、進路選択は同じ悩みを持つ親の会の情報が頼りだった」と振り返る。長女(22)には学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)などがある。一般の中学、高校から専門学校へ進んだが、相手の意図をくみ取ることや、物事の優先順位を付けることが苦手なため、障害者雇用枠で就職した。

 「仕事に優先順位を付けてもらうなど、ちょっとした配慮で娘は働きやすくなる。何が不得意で、どうカバーすればいいか、まず本人が自分の特性について理解することが大事だと思う」。教育現場や社会がそれを手助けできたら、発達障害者の可能性はもっと広がるはずだ。


=2015/04/30付 西日本新聞朝刊=

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