キャバレー編<144>一枚の写真 ロリンズと共に

「リド」の屋上で(27歳ごろ) 拡大

「リド」の屋上で(27歳ごろ)

「素直な演奏を」と話す藤木

 福岡市南区のサックス奏者、藤木四郎(72)の自宅にはビールの代わりに一枚の写真が入ったビアグラスがある。

 「大事にしているものです。私のお宝です」

 ちょっとピンぼけの写真には偉大なサックス奏者のソニー・ロリンズと並んだ若き日の藤木が写っている。

 藤木は1983年のロリンズ福岡公演には仕事で行けなかった。仕事を終えて、中洲のクラブに遊びに行く途中、店先の街頭でロリンズに偶然、出会った。写真はそのときの記念だ。その場の流れでクラブにロリンズを誘った。

 「ビアグラスはロリンズが飲んでいたグラスです」

 自らをサックスへ導いたロリンズとの奇跡とも思える時間だった。

 「高校時代、ラジオから流れるロリンズやコルトレーンのジャズを聴いてかっこいいな、と思ってサックスを手にしました」

 熊本県・天草の山の中で、独りでサックスを練習した。

 高校卒業後、地元のキャバレーのバンドマンとして働いた。さらに同じバンド仲間のつてで長崎県大村市や長崎市などのキャバレーを転戦して腕を磨いた。

   ×    ×

 福岡の「深見プロダクション」から引き抜かれ、福岡県大野城市の白木原にあった米軍キャンプ(基地)で演奏した。キャンプでの思い出についてバンドマンは一様に食べ物について語るが、藤木も例外ではない。

 「キャンプ内で初めてハンバーガーを口にした。今でもこのときの味を超えるハンバーガーに出合ったことはありません。それに、初めて洋式トイレを使った。便器の縁に立って用を足しましたね」

 27歳のときに、中洲にオープンしたばかりのキャバレー「リド」へ。フルバンドでジャズを演奏した。

 藤木の手元にもう一枚、写真がある。「リド」の屋上でサックスを吹き上げている。コルトレーンのアルバム「ジャイアント・ステップス」のジャケット写真をまねた形だ。

 演奏の場が減少する40歳ごろまでキャバレーやクラブで働き、その後は三波春夫、春日八郎など歌謡ショーの伴奏者として九州ツアーに参加した。今も現役のプレーヤーだ。

 数年前、サックス奏者、デクスター・ゴードン主演の映画「ラウンド・ミッドナイト」を観て、変わった。

 「なにもかっこつけなくて、等身大の自分の技術で素直に吹けばいいんだと思いました。まあ、若いときは跳ね上がった演奏も仕方ないですが」

 歳月の中で脂が抜けた。今までと違った藤木の演奏スタイルになるのかもしれない。

 名前の四郎は天草四郎から取った芸名だ。

=敬称略

 (田代俊一郎)

=2013/01/22付 西日本新聞夕刊=

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