キャバレー編<145>映画 二つの文化の融合

キャバレーをテーマにした映画のDVD 拡大

キャバレーをテーマにした映画のDVD

 「レフト・アローン」。ジャズのスタンダードナンバーだ。ジャズシンガー、ビリー・ホリデイのバックで演奏していたサックス奏者、マル・ウォルドロンがビリーにささげた名曲である。

 男が聞く。

 「レフト・アローンの意味は? 」

 女が答える。

 「ひとりぽっちでいってしまった」

 -このような会話が交わされる映画が角川映画の「キャバレー」(角川春樹監督)だ。キャバレーが下火になった1986年に公開された。

 舞台は場末のキャバレー「スターダスト」。甘ったれた学生ジャズに別れを告げたサックス奏者がこのキャバレーに飛び込み、バンドマンとして成長していく物語だ。組織の男が客としてキャバレーで毎回、リクエストするのが「レフト・アローン」。この曲が全編に流れる。

 この連載の中で、多くのキャバレーのバンドマンを取材した。多くがジャズメンだ。

 「あなたがジャズを選んだのではない。ジャズがあなたを選んだ」

 映画の中のセリフをバンドマンたちに贈るとしたらこの言葉になるだろうか。ジャズメン、接客の女性やダンサー…。この映画を最近、DVDであらためて観(み)たとき、登場人物と取材した人と重なった。

 映画のDVDには「蘇(よみがえ)る50年代」とのキャッチコピーがある。戦後の娯楽空間を彩ったキャバレーについての記録映像はごく少ない。映画ではあるが、キャバレーの持っていた雰囲気の一端を知ることができる。

 ×     ×

 日本のキャバレー文化が花開くのは戦後だ。最初のキャバレーは終戦まもなくの東京・銀座の「オアシス・オブ・ギンザ」といわれ、進駐軍専用だった。これに象徴されるように日本のキャバレーはジャズというアメリカ文化の上に成立した特色を持っている。

 キャバレーの元になったのは戦前の欧州文化だ。19世紀にパリで始まり、20世紀前半にその形が確立する。ライザ・ミネリ主演でアカデミー賞を受賞した米国のミュージカル映画「キャバレー」(ボブ・フォッシー監督、72年公開)はナチズムが台頭してくる1930年代のベルリンのキャバレーを舞台にしている。この映画でもわかるように当時のキャバレーは社会風刺の歌や寸劇が中心で、ショーの要素が強い。暗黒の時代を前に、ミネリは映画の中でこう歌う。

 「人生はキャバレーだ。しょせん、キャバレー。でも私はキャバレーが大好き」

 欧州文化と米国文化が融合して日本のキャバレーが誕生した。紹介したこの2本の映画でキャバレーの流れをなぞることができる。

 =敬称略

 (田代俊一郎)

=2013/01/29付 西日本新聞夕刊=

PR

PR

注目のテーマ