【和食力】常備菜 先人の知恵 食材無駄なく 手際良く

 自炊って面倒。お金も時間もかかる。そういう見方を変えてやろうと思った。
 
 九州大大学院人間環境学府で心理学を学ぶ野下文理(ふみただ)さん(24)=福岡市東区=は米ハワイ大の留学時代に自炊を始めた。九大大学院に進学後も継続、通算で約2年になる。続けてみて分かったことがある。「和食って実はとっつきやすい」。お金もかからず時間も短縮できる。自分の例で証明して「自炊の壁」の先入観を壊す調査を思い立った。

 まず1カ月分の自炊費を出す。材料費、調味料費、光熱費を加算。時間は、調理と買い物、準備や後片付けを積算して1食当たりの時間を算出。これを外食の料金、時間と比べた。

 その結果、自炊費は計1万7835円、1食当たり192円。時間はまとめて調理する1週間分で調理の155分と2回の買い物計37分、日々の後片付けなどを足して算出、1食当たり16・8分となった。費用は言わずもがな、時間も最寄りの店への往復と待ち時間を加えた場合と比べて10分以上短かった。

 当初から手際良くできたわけでない。野菜炒めやお好み焼きなど毎日の調理が必要だったころは面倒さも感じていた。そんなとき知ったのが作り置きのおかず、常備菜だった。

    §    §

 「ご飯、おにぎり、だんご、何でも付けて食べた。常備菜のようなものです」。福岡県飯塚市の農産物加工グループ代表、「ながのばあちゃん」こと長野路代さん(84)は15歳で亡くした母の記憶と重なる「こしょうみそ」を思い出す。いりこ、ごま、酒、砂糖、唐辛子を加えて煮詰めたみそ。つぼのような器に入れてあった。風邪をひくとお茶漬けにして食べさせてくれた。サバや鶏肉は漬けて保存食にした。後世に伝えたいとグループで売り出し、今や人気商品だ。

 食べ物がなかった戦中戦後。「その辺の草も白あえやみそあえにした」。父は何でもおいしそうに食べてくれた。若くして台所を任され「どうやってしのぐか。私にとってそこが料理の原点」。

 日本には元来、常備菜の文化があると思う。「例えばヨモギのあくをとって冷凍保存して、必要なときに刻んで使う。春いっぱいの生命力をためておき、体を浄化する」。現代は冷蔵庫も活用し、四季の食材を無駄にせずに食べ切る。時代を超えて知恵が折り重なった食文化が常備菜だろう。

    §    §

 インターネット世代の野下さんは常備菜のレシピをネットで検索する。「チェックしきれないほど出てくる」ものを参考に2~3時間かけて4、5種類をまとめて作る。冷蔵庫には15品ほどが保存容器に収まる。

 例えばある日の夕食。塩こうじ漬けの鶏胸肉の照り焼きに、ひじき、切り干し大根、野菜の酢漬け2品の副菜。だしを取った後のかつお節と昆布のふりかけも付く。翌日はサバ漬け丼。副菜をカボチャの煮付け、きんぴらごぼう、キノコのしょうゆ漬けに替える。和食の基本「一汁三菜」の実践そのものだ。

 伝統調味料のしょうゆ、みりん、酒の使い方など和食は基本が一貫している。それを覚えれば応用も利く。野下さんは実感する。「苦手だった煮物だけど今はそればっかり」。よりおいしい常備菜が次の課題だ。

 「経験から学ぶ。やればやるほど知恵が出てきます」。長野さんも若い力にエールを送った。時代に合わせた技で、和食の力が受け継がれる。

    ◇      ◇

 〈煮物のこつ〉 長野さんによると、たっぷりの煮汁で時間をかけてうま味を吸い込ませる。例えばサンマ(イワシやアジでも可)の佃煮。胴を輪切りにして内蔵を除き、酢(2匹なら100ミリリットル)にひたひたより少なめに水を加えてたく。水分が無くなってきたら水をつぎ足す工程を4回繰り返す。3回目に梅干しと唐辛子を、4回目に砂糖、しょうゆ、みりんを各大さじ2、1、2で入れる。煮汁がなくなったら完成。冷蔵庫で1週間保存可。


=2015/05/13付 西日本新聞朝刊=

PR

くらし アクセスランキング

PR

注目のテーマ