【生きる 働く 第5部】LGBT 自分らしく<1>就職 何度も断られた

 正社員になって彼女と結婚したい。他人から見ればささやかな夢か。熊本市の蓮(れん)さん(25)=仮名=にとっては、さまざまなハードルを越えなければ実現できない、大きな目標だ。

 蓮さんはトランスジェンダー(心と体の性が異なる人)。女性の体で生まれたが、心の性は男性だ。幼いころからスカートが嫌いだった。ハスキーな地声と「男っぽい」言動のため、学校ではひどいいじめに遭った。

 高校卒業でやっと楽になれると思ったが、現実は違った。就職が決まらない。面接のたびに容姿と履歴書の名前、性別欄を見比べられ、けげんな顔をされる。「接客業は難しい」と言われ、コンビニやガソリンスタンドなどアルバイトも次々断られた。

 ようやく決まった仕事も、「女性らしさ」を求められ、自分自身を偽るのがつらかった。カミングアウトして働けば大丈夫かと思ったが、長時間の立ち仕事のときに「生理痛が重い」と漏らすと「あんた男なんでしょ」と怒鳴られた。

 仕事は長続きせず、配送会社、部品工場、運転代行、美容師見習いと職を転々とした。

 同性愛やトランスジェンダーなどLGBT(性的少数者)の2人に1人が就職や転職の際、セクシュアリティー(性のありよう)やパートナーに関することで困難を感じた経験があり、職場で差別的な言動を見聞きした経験は7割に上る‐。

 NPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市)と国際基督教大ジェンダー研究センター(東京都三鷹市)が昨年2~3月に実施したアンケート調査(当事者1290人、非当事者495人の計1785人が回答)では、そんな結果が出た。

 同法人の村木真紀代表は「差別的言動がある職場では、ない職場より勤続意欲が低いというデータも得られた。見えない、気付かないだけで自分の職場にもLGBTがいるという前提で取り組むべきだ」と指摘する。

 厚生労働省は、男女雇用機会均等法のセクシュアル・ハラスメント対策指針を「セクハラは同性に対するものも含まれる」と改め、改正指針は昨年7月に施行された。性別役割分担意識に基づく言動もセクハラの原因や背景と明示し、LGBTへの差別的言動もセクハラにあたることとなった。

 蓮さんは2年前から、警備のアルバイトを続けている。男性として扱ってほしいという申し出を聞き入れてくれた職場は、肉体的にはきつくても、働きやすい。トイレは男性用を使えるし、セクハラ発言で嫌な思いをすることもない。仲間と気軽に彼女の話もできる。

 ただ、生活は苦しい。一緒に暮らす彼女と子どもを養うために働きづめの日々だ。午前7時に家を出て、帰宅は午後7時。休日は月2日。昼食は108円のパン一つで済ませる。年金は払えず、健康保険も親の扶養に入れてもらっている。

 結婚するためには戸籍の性別を変える必要があるが、性別適合手術のための貯金もままならない。何もできないまま、忙しい日々に追われている。

    ◇    ◇

 国内で20人に1人はいるとされるLGBT。偏見や差別を受け、困難を感じている当事者は少なくない。近年はダイバーシティ(多様性)の観点から、LGBTに配慮した企業も増えてきた。自分らしく働ける社会のために、何が必要か。当事者の声から考えたい。

 ●メモ=LGBT

 レズビアン(女性の同性愛者)やゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害含む)の頭文字を取ったセクシュアルマイノリティー(性的少数者)の総称。このほか、性的指向や性自認が揺れ動いたり定まらなかったりするクエスチョニング、恋愛感情を抱かないアセクシュアルなど、多様な人がいる。電通総研が4月、20~59歳の約7万人を対象にした調査では、約7.6%に上ることが分かった。 


=2015/05/19付 西日本新聞朝刊=

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