【あした天気図 私の共同参画考】<1>変化したが進歩はない 社会学者 上野 千鶴子さん(64)

 ■新訳男女 シリーズ第24部■ 
 きょう4日は衆院選公示の日。社会保障、税、年金…。暮らしに関わる課題が山積する一方で、どんな選択をするにしても、一つ確かなことがある。男女に関わりなく誰もが能力を発揮して支え合わなければ、少子高齢社会は持ちこたえられない。男女共同参画社会の在り方を4人の識者に聞く。

 ‐上野さんが女性学の研究を始めて約30年、男女共同参画社会の形成は進んでいるのでしょうか。

 「変化したとは言えますが、進歩したとは言えません。大きな変化は女性の人生の選択肢が多様化したこと。『結婚して家庭に入る』が当然ではなくなり、共働き、シングルマザー、離婚、おひとりさま…。でも、それらの人がみんな幸せかというとどうでしょう。社会の受け皿や支援制度はまだまだ整っていません」

 「私の研究の出発点は主婦研究です。子どもや夫、親の世話。家事という形のただ働きで社会的貢献をしているのに、評価されず認められていない。それを理論的に明らかにしました。主婦が家事労働のハンディを背負っている状況は、現在も変わっていません」

 ‐2010年には育児を率先して行う「イクメン」が流行語になりました。

 「11年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は有資格者のわずか2・63%。女性の87・8%とは大きな開きがあります。イクメンをもてはやすだけでなく、育休が会社の査定に響いてないか、復帰後も保育所の送迎など負担をシェアしているか、追跡する必要があります」

 「家事労働時間の国際比較データを見れば、はっきり分かることがあります。日本は(1)時間が長い(2)男性の参加が著しく低い(3)長く傾向に変化がない(4)男性の家事参加が妻の有職、無職に影響されない‐。電化製品の進化などで世の中は便利になったのに、ほとんど変化していないのです」

 ‐これからの社会はどうなっていくのでしょうか。

 「既に変化が表れています。女性が結婚しない、子どもを産まない。男性が変わらないと状況は変わりません。家庭責任を引き受ける、もっと根本的にはパートナーとの関係を自分の人生にどう位置付けるか考える。植物に水やりが必要なように、家族にもメンテナンスが必要です」

 ‐非婚化、少子化に対策はあるのでしょうか。

 「女性の非正規雇用率は急増し、90年代初めの3人に1人から、わずか10年で3人に2人になりました。家計経済研究所が未婚の正規、非正規の女性雇用者の10年後を追い掛けた調査があります。婚姻率、出生率ともに正規が高かった。安定と安心がないと、女性は結婚しない、産まない。私生活を破壊するようなハードワークではない安定雇用の確保は、少子化の処方箋として有効だと思いますが、特効薬はありません」

 ‐超高齢少子社会でどう生きるべきでしょうか。

 「人口減少社会を不可避と考えて、制度設計を作り直すしかないでしょう。日本は国民連帯率(国民負担率)が低い。将来の安心のためには、社会保障制度を持続可能なものにする必要がある。社会保障の枠組みもライフスタイルの多様化に合わせ、世帯単位から個人単位に変えるべきです。投票に行かない、政治を人任せにしている人は自分の首を絞めています」

 「まずは自助。仕事と収入は手放さず、年金を納めること。次は共助。金持ちより人持ちが大事です。会社は退職、子は独立、妻や夫と死別…。みんな最後はおひとりさまになります。血縁、地縁、社縁にとらわれない人のつながり、困ったとき助けてくれる仲間づくりをしましょう」

 ▼うえの・ちづこ 1948年、富山県生まれ。東大名誉教授。NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして活動。近年は介護とケアの問題に研究範囲を広げる。著書に「おひとりさまの老後」など。

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 ●衆院選 課題チェック=女性議員数

 スイスのシンクタンク、世界経済フォーラムが10月に発表した2012年版の男女格差報告では、日本は調査対象となった135カ国中101位となった。女性の企業幹部や議員が少ないことが指摘されており、先進国や主要国の中で最低水準の評価が続いている。

 列国議会同盟が9月に公表した国会議員に占める女性の割合ランキングでは、日本の衆院は10・8%で138位。1980年代までは、議員数は1桁、比率も1%台で、3年前にようやく1割を超した。参院は現在、242人中44人(18・1%)を女性が占める。

 世界には、候補者の一定割合を女性に振り向けるクオータ制(人数割当制)を取り入れ、女性議員の割合を増やしている国が多い。日本もクオータ制の導入を盛り込んだ第3次男女共同参画基本計画を2010年に閣議決定したが「自由競争を妨げる」との反対論が根強く実行を阻んでいる。


=2012/12/04付 西日本新聞朝刊=

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