【忘れてませんか? 衆院選 課題チェック】<1>教育 改革論議 子ども目線で

 師走の衆院選(16日投開票)も終盤戦へ。12政党が乱立する選挙戦では、原発・震災復興、経済対策、消費税増税、外交・安保問題などを中心に、論戦が繰り広げられている。でも、忘れてませんか、身近な暮らしの視点を。教育、食と農、福祉、医療-それぞれの分野の編集委員4人が現場を歩きながら考えてみました。

 「混迷する政治や経済に、教育も振り回されてきた」。福岡県内にある山里の小学校。本年度で定年を迎える校長は、約30年に及ぶ教職の歩みを振り返り、しみじみと話す。

 証券会社での営業に限界を感じ、親族の勧めもあって、教員になったのは29歳。テレビで〈3年B組金八先生〉の放映が始まったころだ。バブル経済に浮かれた1980年代。学校現場では「学級崩壊」という言葉も生まれた。

 「あのころも、今と同じようにいじめや不登校はあった。でも、私たち教師はそうした子どもたちと向き合い、親ともじっくり話せる時間があった。格闘はしたが、それなりの充実感もあった。それが…」

 離島のへき地校から、街中のマンモス校まで、これまで八つの小学校で勤務してきた。だが、国の教育方針は時計の振り子のように左右に揺れる。

 学力偏重の批判を受け、ゆとり教育が本格実施(学校週5日制の完全実施)されたのは2002年。今度は学力低下論争が巻き起こり、11年度からは小学校を皮切りに、逆に脱ゆとり、学力重視の新学習指導要領が導入され、現場は対応に追われている。

 まぶたを閉じると浮かぶのは、優等生より、課題を抱え、指導に追われた子どもたちの顔だ。

 「なぜ宿題をやってこないのか、なぜ悪さばかりするのか…。家庭訪問をすると、その背景が見えてくる。経済(所得)格差が教育格差に直結している現実を痛感した」

 「読解力、応用力、コミュニケーション力…。子どもたちに多くの力を求めすぎているのではないか。それは私たち大人が力を失い、求めていることの裏返しではないか」

 谷にこだまする選挙カーの連呼を聞きながら、校長は自戒を込めて話した。

 教育をめぐってはここ数年、踏み込んだ改革論議がかまびすしい。

 小中学校への留年・飛び級制度の導入(学力の二極化が進む中、競争原理をどこまで導入すべきか)▽大学の秋入学(国際的な大学間競争が激化する中、グローバル化に対応した学生をどう育成するか)▽教育委員会制度の改革(首長と教育委員会の関わり、政治は教育行政にどこまで関与すべきか)…。

 各党の政権公約(マニフェスト)には濃淡があり、必ずしも明確な記述が出そろっているわけではないが、教育の転換期にあって、有権者はそんな視点からも政党や候補者の吟味を迫られている。

 先進国でつくる経済協力開発機構(OECD)の調査によると、国内総生産(GDP)に占める教育費の公的支出割合(09年)は、日本は3・6%で、データが比較可能な31カ国のうちで最下位。デフレ不況下、国の借金が1千兆円に膨らみ、社会保障費が増大するだけに、教育予算を取り巻く情勢は厳しく、より施策の中身が問われる形になっている。

 そんな中、有権者の関心が高いのが、いじめ問題への対応。大津市の中学生が自殺した問題を受け、各党の政権公約には「いじめ防止に向けた法律の制定」が並ぶ。

 何か問題があると、国は緊急調査、新組織の立ち上げ、対策費の増額などと、ステレオタイプの対応を続ける。しかし、繰り返される現実を考えると、旧来型の対応ではもはや立ちゆかなくなっていることは明らかだ。

 ごくありふれた中学校を舞台に、教師と生徒の葛藤、成長の物語を描くコミック〈鈴木先生〉が、中高校生の人気を集めている。原作者の武富健治さん(42)は佐賀県生まれ。中学1年でいじめを受けた体験も踏まえ「教育とは何か」を問い掛ける。

 インタビューする機会があり、いじめ対策について尋ねると、武富さんは考え込み、こう話した。

 「法律や制度を厳格化するより、子どもたちの居場所や逃げ道をつくってあげることの方が大切なんじゃないか。親子と学校と地域が、責任を求め、反目するのではなく、互いにかばい合うような関係づくりも」

 大きな構造改革の議論も進めなければならないが、そんな小さな現場改革の積み上げこそが今求められ、それを支援する政治も問われている。

 震災から10年、20年後の時代の扉を開き、歩んでいく子どもたち。目線を下げてみよう。1票の風景は変わってくるかもしれない。


=2012/12/11付 西日本新聞朝刊=

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