【忘れてませんか? 衆院選 課題チェック】<2>食と農 「守る理由」を考えよう

 暮らしを考える上で欠かせない食と農。衆院選の各党の公約を見ても、農林漁業に関しては「食料自給率50%を目指す」「新規就農など担い手育成」「成長産業化」「6次産業化で3年後までに3兆円産業に」など前向きな主張が並ぶ。その実効性は別としても、なぜ農林漁業は守らなければならないのか。もしも202X年、日本のカロリーベースの食料自給率が10%になったら-その姿から「守る理由」を考えてみた。

 《202X年、地球を干ばつが襲った。米国、オーストラリアといった世界の輸出大国は一斉に輸出を停止。日本政府は「それは困る」と要請したが、どの国もまずは自国民の食料確保を最優先し、日本には申し訳程度のくず米が送られてきただけだった…》

 昨年の日本の食料自給率は39%=グラフ参照=ながら、主食用のコメは100%。今なら、専業・兼業、規模の大小はあるにせよ、米を作る能力を有する人がいる。農地もあるし、農業機械もある。

 世界人口白書によると、地球の総人口は昨年、70億人を突破した。うち飢餓人口が10億人いるといわれる中、さらに人口は膨張を続け、2050年には100億人に達する見込みだ。

 備えはあるか。米、麦、大豆、それに牛などが食べる飼料など、ヒトにとって最も基本的な食料である穀物自給率で見ると、日本は26%で、176の国・地域中127位。1億人以上人口を擁する国の中で、ずぬけて低い=表参照。

 福岡県桂川町の有機農家古野隆雄さんは「人口1億人超の国が、食料危機に備えて自国の生産態勢を維持しておくのは、国際的責務でしょう」と提起する。

 《202X年、「やっぱり日本人は和食よね」。そう言ってA子は買い物籠に豆腐と納豆を入れた。だが、ラベルには、かつて書いてあった「遺伝子組み換えではない」という文字はない。世界の大豆はすべて遺伝子組み換えに置き換えられたからだ。コメもトウモロコシもジャガイモも、遺伝子組み換えでない方を探す方が難しい…》

 バイテク情報普及会によると、日本が輸入大豆の約8割を頼る米国では昨年、その94%が遺伝子組み換え化。農林水産省によると「世界の大豆生産量の70%は遺伝子組み換えで、そうでない大豆の確保は年々難しくなっている」という。

 農民連食品分析センターの八田純人所長は「わずか7%の自給率とはいえ、今は国内に生産者はいるし、海外にもまだ非遺伝子組み換え大豆があるから『選択の自由』がいえるが、全部置き換わればもうアウト。添加物や農薬の安全基準にしても、外国の基準をそのまま受け入れざるをえなくなります」と指摘する。

 《202X年、大都市を洪水が頻繁に襲うようになった。中山間地の水田が原野化。山の手入れをする人がおらず、水田と森林の保水能力が低下したためだという。関税撤廃でサトウキビがすべて外国産に置き換わった鹿児島の離島は人口が激減。漁師も魚価の低迷で島を去り、離島はレジャー施設の関係者と国境監視隊だけになった…》

 九州共立大学の横川洋教授は「農業・農村は農産物の生産だけでなく、農山村で農業が継続して行われることにより、洪水や土砂崩れを防いだり、多様な生き物を育んだりといったさまざまな『めぐみ』をもたらす。お金では買えない役割を『農業の多面的機能』と呼びます」と解説する。

 三つのシミュレーションは架空の世界。とはいえ、「自給力」を失った国の末路は案外、こんなものかもしれない。食料主権のない国に、国民の健康を守れるとは思えないからだ。

 目の前の価格だけで比較すれば、圧倒的な地理的条件と労賃の差などから、外国産にかなう国産農産物はそう多くない。国内に目を転じても同じこと。平地と中山間地の農業の作業効率の差は大きいが、価格だけで判断すると中山間地の公益的機能を見失う。それを評価する別の視点が必要だ。裏を返せばこれこそが、社会的コストをかけてもこの国の農林漁業と、それに従事する人々を守らなければならない理由といえる。

 今回の衆院選。こんな視点から見たら、あなたはどんな選択になるだろう。


=2012/12/12付 西日本新聞朝刊=

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