【忘れてませんか? 衆院選 課題チェック】<4完>医療 健康支える基盤 揺らぐ

鹿児島県出水市にある市立出水総合医療センター。地域の基幹病院だが、医師不足に悩んでいる 拡大

鹿児島県出水市にある市立出水総合医療センター。地域の基幹病院だが、医師不足に悩んでいる

 「私の場合、抗がん剤の副作用は両手と両足に出ます。指の皮がむけたり、あかぎれのような傷ができたり。痛くて仕事をやめたくなるときもあります」。乳がんを患いながらも福岡県内のスーパーでパートとして働く文子さん(46)=仮名=は、医療用テープを指に巻いた両手を見せながら、そう話してくれた。

 パートは週5日で、勤務時間は各日とも朝から昼すぎまでの4時間。仕事は、重たい商品の運搬、発注業務、商品の陳列など手を使う作業ばかりで、指の傷が悪化してしまうことも。さらに勤務中は立ちっぱなしで疲れがひどくなることもある。だが、お金が必要だから辞められない。

 会社員の夫(52)、大学1年の長男(18)、中学2年の次男(14)の4人家族。夫はまじめで収入が少ないわけではないが、給与の額は不況でここ10年ほど伸び悩んだまま。生活費、家のローン、教育費と出費がかさみ、加えて自分の治療費が基本的に毎月約3万5千円かかる。「7万円ほどになる月もある」と話す。

 乳がんを発症したのは2年半以上前。医師から「手術はできない」「完治しない」と診断され、落ち込み、涙が流れた。それまでもスーパーでパートとして働いていたが辞めた。

 それでも今春、パート勤めを再開。長男が県外の私立大学に進学し、仕送りの必要が生じたからだ。時給は約700円で月の稼ぎは6万円ほど。「私が働いても家計は苦しい。がんの治療費がもっと安ければ」

 文子さんは現在、4週間ごとに通院し、がん治療を受けている。公的医療保険が適用され、基本的に毎月支払う約3万5千円は自己負担分だ。

 月の自己負担が高額になった場合、負担を軽減する高額療養費制度という公的制度はあるが、文子さんの約3万5千円は高額とは見なされず、軽減の対象外。文子さんのように制度の適用外であっても「治療が長期になって、治療費が家計の負担になっているがん患者は多い」と、乳がん患者団体「あけぼの福岡」の深野百合子代表は指摘する。

 日本は2人に1人ががんを患うとされる「がん大国」。がん患者への支援は政治課題で、今回の衆院選でも各党の公約に「治療が長期にわたる患者の負担軽減を図る」などとあるが、論戦は活発でなく、重要視されていない感じだ。

 勤務医の労働実態について、全国医師ユニオン(東京)などでつくる実行委員会が今年6~10月に調査した結果がある。対象は全国2108人の勤務医。「業務負担はこの2年間で変わりましたか」の問いには「増えた」が44%で、「減った」(17%)の倍以上だった。そして83%が自分の病院で医師不足を感じ、61%が医師養成数を増やすべきだと答えていた。

 かねて問題だった医師不足が今なお深刻なことがうかがえ、全国各地の医療体制の崩壊が懸念される結果だ。

 実際、鹿児島県出水市の市立出水総合医療センターは医師不足の状況が続き、産科は2007年度から休診。整形外科は11年度から常勤が1人だけになり、交通事故に伴う緊急手術への対応が困難なケースが出てきている。井川澄晴事務部長は「全国的に絶対数が不足の上、医師の都会志向もあり、うちのような地方の病院は確保が難しい」と話す。

 医師不足は前回の衆院選では論戦のテーマだったが、今回はあまり取り上げられず、やはり重要視されていない印象だ。

 福岡都市圏のアパートで1人暮らしの昭雄さん(74)=仮名=に昼前に会いに行くと、ウイスキーのお湯割りをチビリチビリと飲んでいた。「今日は体調がいいので朝から飲んでいる。これで3杯目」と赤ら顔で話し、たばこも吹かした。

 妻、長男と暮らしていたが離婚し、ここ20年ぐらいは会っていない。離婚後は転職を重ね、年金を担保に借金をしてホームレスになったこともある。

 今の6畳一間のアパートに1人で暮らし始めて約10年。その間、収入は年金だけで月14万円ほど。人付き合いはあまりなく、アルコール依存症を患い、がんの手術も受けた。酒はかかりつけの医師から控えるよう言われ「2、3週間飲まないこともある」というが「完全にやめることはできない。寂しさを紛らわせるために必要だから。誰とも話さない日もある」と語る。

 10年の国勢調査によると65歳以上の単身者は約479万人。取材の実感としては、昭雄さんのように健康面が不安定な単身の高齢者は少なくなく、今後、さらに増えそうな気がする。

 不況、都市化、高齢化、財政難などによって国民の健康を支える基盤が揺らぐニッポン。これに危機感を抱き、本気で改善に動く政党はどこか。候補者は誰か。じっくりと見極めて投票したい。

 =おわり

=2012/12/14付 西日本新聞朝刊=

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