【こんにちは!あかちゃん】 第1部 少子化 それぞれの理由<3>「2人目の壁」を感じて

娘と一緒に夜の街を帰宅するシングルマザー。寄り添って生きている 拡大

娘と一緒に夜の街を帰宅するシングルマザー。寄り添って生きている

 第1子を産む前の肩書は「編集長」。1年半の育児休業から戻ると「ただの編集員」になっていた。2年前に職場復帰した愛さん(33)にとって、この経験が2人目の出産に二の足を踏む一因となっている。

 福岡県内の地場企業で長年、社内報づくりを担当してきた。育休前の1年は編集長を任され、企画や予算配分を考えたりと、やりがいを感じていた。もっと自分の色を出そうと張り切っていた時、妊娠が分かった。

 会社員の夫(44)と結婚して9年がたっていた。ずっと子どもが欲しかった。でも、編集長の仕事は大丈夫だろうか…。「安心して休んで」と気遣う同僚の言葉が「私がいなくても大丈夫なんだ」と聞こえた。

 育休の終盤は仕事をしたくてたまらなかった。社会とつながり、役に立ちたいという思いがあふれた。

 ところが、職場に戻ってみると「浦島太郎のよう」だった。経理システムが一新されていて、若い社員に使い方を習った。「勘を取り戻さないと」。焦りが募る半面、子育てとの両立に必死で、編集長が務まるほどの余裕はなかった。

 最近、上司に管理職への昇級試験を勧められた。ただ、また育休を取れば現場の感覚は鈍り、昇進は遠ざかるだろう。夫は、第2子ができても成人前に定年を迎えるため、経済的な不安から反対している。「2人目の壁」を前に、夫婦で将来設計を話し合う日々だ。

 家計が安定しない‐これが「2人目の壁」となって桜さん(39)に立ちはだかった。15年前、3歳上の夫と職場結婚し「寿退社」。翌年、夫まで仕事を辞めてしまった。「何か事業を始めたいから」という理由は後から聞かされた。当時は個人が起業するベンチャーブームの時代だった。

 結婚して2年後、長女を身ごもった時点で夫は無職だった。出産するころになって、なんとか知人が経営する健康器具の訪問販売会社で働き始めてくれた。ただ、収入は歩合制。早朝から深夜まで働いても食べていくのがやっとで、親子3人の時間はなかった。

 しばらくして独立し、同じ訪問販売業を始めた。今度も相談はなかった。自分が働いて家族を支えたいと考える夫は、妻が働くのを嫌がった。会社に泊まり込み、ほとんど帰宅しない日が続いた。娘は出勤する父親に「またね」と言った。

 今、夫はIT関係の会社を営む。月20万円前後の生活費を渡され、ささやかなぜいたくはできる。でも、いつしか第2子は諦めていた。「生まれていたら、つらくて離婚していたと思う」。桜さんにとっての家計の壁は、裏返すと、夫婦の溝だったのかもしれない。

 必死だった。「2人目の壁」を感じる余裕もないほどに。福岡市のマンションで暮らす円さん(38)は、娘(10)を産んで間もなく離婚した。保育所に娘を預け、シングルマザーとして駆け抜けてきた。

 関東の大学を卒業し、東京で大手のIT企業に就職した。外資系で競争が厳しく、深夜まで残業する日がほとんど。安らぎを求めるように、契約社員の同僚と交際を始めた。

 半年後、妊娠していることが分かった。離婚や死別で独り身になった親族の影響もあり、結婚や出産は考えていなかった。1人で生きていける経済力も身に付けていた。でもやっぱり、結婚して子どもを産もう。2人で話し合って決めた。

 長続きはしなかった。急な結婚で「価値観を擦り合わせていなかった」ことに気付く。「君は仕事を辞めていいんじゃない?」などと後先考えない発言に「夫まで背負っては生きていけない」と決意する。結婚から1年半、娘と2人の暮らしを選んだ。

 転職し、東日本大震災を機に福岡へと帰郷した。現在は、在宅勤務で光学機器メーカーの海外営業の仕事をしている。子を養い、生活する収入は十分ある。円さんにとっての「2人目の壁」は、再婚する気になれないことだ。

 娘は保育所に通っていたころ「おかあさん、ありがとう」と手紙を毎日書いてくれていた。結婚はともかく「産んでよかった」と心から思っている。

 (文中仮名)

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 ●メモ=一人っ子の推移

 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」2012年1月推計で、女性が産む子どもの数の調査を見ると、1955年生まれの女性は、出生児数1人が11・8%、2人が47・1%、3人が23・4%だった。出生児数1人の割合は、70年生まれで18・6%に増え、80年生まれでは20・6%と2割を超す。一人っ子の割合は増えてきている。一方、出生児数2人は70年生まれが37・0%、80年生まれが33・4%。出生児数3人は70年生まれ、80年生まれがともに12・5%。いずれも減少してきた。


=2013/01/09付 西日本新聞朝刊=

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