【こんにちは!あかちゃん】第1部 少子化 それぞれの理由<5完>女性が生きづらい国で

子育てと仕事を両立していけるか。実効性のある少子化対策が求められている 拡大

子育てと仕事を両立していけるか。実効性のある少子化対策が求められている

 呪縛のように、母親の言葉が耳に残って離れない。「結婚と子育てに失敗した」-。福岡県内のIT企業で働く恵さん(40)は、どうしても結婚する気になれないまま年を重ねてきた。

 母は“家に入る”まで洋裁の仕事をしていて、自分を出産した後、また働きに出るつもりだった。だが、義父母から「子育てに専念を」と反対される。きょうだいで男は父だけとあって“跡取り”を期待された。祖母の看護で家を離れることも快く思われなかった。

 そんな家で育った父が味方に付いてくれるはずもない。母は孤立していく。10年ほど前に離婚。ずっと恨み節を聞かされて育った。

 自分の今の仕事にはやりがいを感じている。ただ、移り変わりの激しい業界だけにとにかく忙しい。もし結婚して出産したら…。従業員30人ほどの中小企業。育児休業を取れば同僚に負担をかけるだろう。早期復帰しても時短勤務などの支援制度は整っていない。

 過去には付き合った人もいて、結婚の話が出たこともある。そのたびにあの言葉がよみがえり、積極的になれなかった。働けなかった母親も、働く自分も、身を置くのは「女性が生きづらい社会」に変わりない。

 タイムリミットが迫っている。3歳になる長女に妹か弟を産んであげたい。できるだけ年が離れていない方がいい。36歳という自分の年齢もある。でも薫さん=福岡市=は「2人目」に踏み切れないでいる。

 共働きで、娘は認可外保育所に通わせている。月12回預けられるコースで契約し、約1万8千円。認可に比べて割高だが、待機児童問題が立ちはだかった。知ってはいたが、まさか自分の身に降りかかるとは…。

 非正規の立場で働いている。月収は10万円前後で、ほとんどを子育てに使う。今の状況で2人目を育てられるだろうか。2人とも認可外だったら、家計は成り立つだろうか。

 正規の立場でフルタイム勤務をすれば収入が増えるし、2人目を出産しても職場での立場は守られ、育休などの支援も受けられる。今の職場からは正規契約を勧められている。ありがたい話だが、認可保育所に入れる見通しが立たない今、即答はできない。

 2人目、3人目を産んだ友人もいる。皆、親から何かしら援助を受けている。自分の親は体が丈夫な方ではなく、夫の親も近くに住んでいない。「国は、この産みにくい現実を分かっているのかな」。かわいい娘を見ていると、また2人目が欲しくなってきた。

 「女性が主役の会社なので甘えが利きません。でも仕事の充実度が人生の充実度に比例しています」。舞さん(41)は、福岡市の人材会社で派遣などの責任者をしている。入社8年目。社長をはじめ、約40人いる従業員の9割が女性だ。

 20年前、短大を卒業して生命保険会社に入った。企業での女性の役割が、男性の「お手伝い」から「パートナー」へと変わる時代。まだ緒に就いたばかりだった。

 25歳を前に退社し、働きながら学ぶワーキングホリデーでカナダに渡る。1年半勤めた免税店は、管理職の男女比がほぼ半々。対等な立場で議論する姿に「男女平等でうらやましい。カルチャーショックを受けました」。

 帰国後は仕事第一に生きてきた。とはいえ、それは結果論。結婚や出産に後ろ向きだったわけではない。過去に交際した男性は頑張る自分を認めてくれる「パートナー」だった。最近、友人が高齢出産をして「私も」と勇気づけられた。

 今の仕事量は削れない。専業主婦になるつもりはない。結婚するなら家事や子育てを夫と分担するのが大前提となる。結婚や出産後に仕事復帰を諦めた人を何人も見てきた。

 今年で42歳。「子どもは欲しいな、とずっと思っているんですよ」。産みたいのに産む条件が整っていない-それがもっぱらの悩みだ。(文中仮名、おわり)

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 ●完結出生児数

 国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(2010年)によると、18~34歳の独身者のうち、結婚する意思がある人の割合は女性が89%、男性86%で、高水準を維持。また、夫婦に尋ねた「理想的な子どもの数」は2・42人だった。ところが、実際に夫婦が生涯にもつ子どもの平均人数(完結出生児数)は1・96人で、初めて2人を下回り過去最低に。交際相手のいない女性は49%、男性は61%に上った。結婚や出産の意思はあっても実現できていない実情が浮かび上がる。こうしたギャップを埋めるためにも、実効性のある少子化対策、労働環境の整備などが求められる。

=2013/01/11付 西日本新聞朝刊=

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