映画「鈴木先生」 コミック原作の武富健治さん 教育を語る 普通の子も悩み多い 居場所や逃げ道大切

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公開されている映画「鈴木先生」について語るコミック原作者の武富健治さん

 生徒と向き合う、子どもに寄り添って-。多くの教師たちが好んで口にする言葉だが、本当の意味は何か、考えさせられる。中学校を舞台にしたコミック「鈴木先生」を原作にした同名映画が公開されている。学びが深まる2学期、生徒会役員選挙を軸に、物語は意外な結末へと向かっていく。原作者の武富健治さん(42)が生徒や先生に向けるまなざしは、教育現場の痛いところを突いている。

 主人公の鈴木先生は、国語の男性教諭。30歳前後だろうか、黒縁眼鏡とループタイがトレードマーク。ずっこけもあり、自問を繰り返しながら、指導を模索している。反りが合わないのが、家庭科の女性教諭・足子(たるこ)先生。その指導は、ある意味で正論なんだけど、どこか息苦しい。職員会議は足子先生の主張に、同僚の多くが違和感を感じながら、何となく流されていく。

 「僕は中学生のころ、テレビで〈3年B組金八先生〉を見て、育った世代。あの物語って、熱血先生が問題を抱える生徒を救う場面が多いでしょ。僕みたいな普通の生徒には、なかなか光が当たっていない印象だった。でも、一見普通に見える生徒も、実は鬱屈(うっくつ)したものをいっぱい抱えている。だから、普通の生徒や教師を主人公にした物語を書こうと思った」

 映画は、生徒会役員選挙をめぐり、落書きや白票などの無効票を絶滅しようと、足子先生が「全員参加で実現する公正な選挙」を呼び掛け、無効票が多かった場合、記名投票による再選挙を生徒に求めたことで、物語は大きく動きだす。

 「社会学習の一環としての生徒会選挙。でも、投票率100%って、本当に美しく、正しい行動なのだろうか。投票を拒否する生徒には、それなりの理由があるのではないか。学校や大人はつい、そうした行為を排除しようとするが、実は子どもたちにとっては大切なグレーゾーンだったり、逃げ道なのではないか」

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 武富さんは佐賀県で生まれ、東京で育った。都心の中学校に入学すると、間もなくいじめに遭った。小学校からの友達が、中学生になるとツッパリ(不良)になり、いじめを受けるようになった。

 「上靴を隠されたり、家で削っていった鉛筆の芯が、休み時間の後には全部折れていたり…。仲良しだっただけに、ショックも大きかった。やがて親同士が話して、いじめはなくなった。最近のいじめ報道などを見ていると、お父さん、お母さんをもっと頼っていいいと思う」

 「何かあると、親と学校が責任を要求し合い、反目するケースが多いでしょ。それが、かばい合うような関係になればいいと思う。例えば、AかBかで対立するのではなく、それぞれがAかBかで悩み、自分の中でけんかする。それぞれが葛藤しながら、仲間になっていくような」

 「いじめがなくなるとは思えない。文化祭とか部活とか、何でもいい、子どもたちが一時避難できるような居場所をたくさんつくってあげることが大切なんじゃないかな」

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 生徒会選挙をめぐり、鈴木先生は、人前に立つのが苦手な女生徒に立候補を促す。女生徒は「恵まれてるんだから頑張れ。そういうふうに人間を追い詰めることが、どんなに危険なことか知らないんですか?」と反発する。鈴木先生は「頑張れと無理強いされたからこそ、一歩を踏み出せる人間がいることも事実なんだ」と諭す。

 「中学校時代を振り返ると、いろんな先生がいましたね。休み時間にいつも一緒にスポーツをしてくれた先生。苦虫をつぶしたような顔をしてるんだけど、授業が上手な先生。ドキドキするほど若くてきれいな女の先生。小学5年生のころから漫画家になろうと思っていた。でも、もしもう一度、人生があったら鈴木先生と同じ、中学校の国語教師になりたい」

 狭く、薄暗い校内の喫煙室。鈴木先生は、先輩教諭に悩みや迷いを打ち明けながら、こう話す。「規制を強化したり、法律や制度を厳格化することで、本当に世の中は良くなるのでしょうか」。先輩はこうつぶやく。「結局は人間ですよ。人間自身が成長しないと、何も変わりません。それこそがわれわれの仕事です」

 「子どもたちは、友達や親や先生たちのいろんな面を見ながら、時には道を踏み外しそうになりながら、何とか少しずつ成長している。でも、教育って、世界を変えていく力を持っていると信じている。問われているのは私たち大人なのだと思う」


=2013/01/15付 西日本新聞朝刊=

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