転倒予防 楽しく手軽に「ふまねっと運動」 升目を歩くだけ

細迫さん(右)の指導を受け、手をたたきながらリズム良く歩くお年寄り 拡大

細迫さん(右)の指導を受け、手をたたきながらリズム良く歩くお年寄り

 お年寄りにとって怖いのが、転倒して骨折し要介護に陥ることだ。介護予防のため、仲間同士で楽しみながら歩行機能を改善する「ふまねっと運動」が、発祥地の北海道から全国に広がりつつある。50センチ四方の升目を進みながら、リズムに合わせてステップを踏むだけ。筋力が弱ったお年寄りでも手軽にできる。ふまねっとインストラクターの細迫玉美さん(58)が福岡市早良区で開いている高齢者交流サロン「コミュニティくらぶ花」を訪ね、運動を体験してみた。

 「はい、まずは足の指を丸めて」「次は広げて」-。この日、サロンに集まったお年寄りは5人。椅子に座って足を念入りにマッサージしてから運動に臨む。

 用いるのは「ふまねっと」と名付けられたゴム製の網。3列の升目が縦に8個ずつ並んでいて、網を踏まないように気を付けながら、手拍子や童謡のリズムに合わせて歩く。

 お年寄りに交じって挑戦した。まずは右、左。次は左、右の繰り返し。ここまではごく簡単だ。「片方の足に重心を移すことを意識して」と細迫さん。

 この後、いきなりステップが難しくなった。右足から踏み出して横移動した後、左斜め前の升に左足から踏み出し、次は右斜め前に右足から。お年寄りたちが「右、左」と掛け声と手拍子で後押ししてくれる。何とか歩き終えると、細迫さんから「次は右足に合わせて手をたたいてください」とさらなる注文。雑念を振り払い、「右でパン」と言い聞かせながら真剣に歩いた。最後の升で手拍子を忘れそうになったものの何とか終えると、お年寄りから大きな拍手が。「さすがにお若いわね」と中年の身で褒められて、照れくさいやらうれしいやら…。最後はお年寄り全員がどんぐりころころの歌に合わせて軽快なステップを披露。動きがぴったり合うと、手をたたいて喜び合った。

 鳥巣ヤス子さん(76)は「手をしっかり振るので、肩から上に上がらなかった手が上がるようになった。頭も使うのでぼけ防止にちょうどいい」。佐藤めぐみさん(71)は「膝が痛くて通い始めた。今では皆さんとお会いできるのが一番の楽しみ」とにっこり。

 考案したのは北海道教育大学釧路校の北澤一利教授(49)=公衆衛生学。細迫さんは、3年前に北澤教授が代表を務めるNPO法人地域づくり支援会ワンツースリー(札幌市)の講習会に出向き、インストラクターの資格を取得。「花」で指導するほか、デイサービスでの出張講習も続けている。「軽い運動なので、つえ歩行の人も手を持って支えてあげればできる。高齢者にいつまでも朗らかな時間を過ごしてもらえるよう、運動を普及させたい」

 コミュニティくらぶ花=092(846)8025。

 ●歩行と認知 同時に向上 考案の北澤一利教授に聞く

 考案したのは2004年。アスリートが敏しょう性のトレーニングに使うラダー(はしご)を使って、高齢者にネットを踏まないよう歩いてもらった。70代後半の半分近い人が踏むのだが、本人は踏んだと思っていない。認知と体にずれが生じているのだ。それが転倒などの生活リスクを招く。そこで、筋力重視ではなく、頭を使いながら手軽に継続できるやり方をと、この運動を考えた。

 特徴は歩行と認知、二つの機能の向上が同時に図れること。週に1回、6週間続けた人は歩行速度が9%速くなった。8週間やると、認知機能も4・5%向上。一度に複数の行為を課すデュアルタスク(二重課題)が奏功したと考えている。まず歩き、次はステップのルールを覚える。そしてリズムに合わせて、さらには手もたたく。注意を足や手に分配する高次元の監視活動が必要になるため、神経の伝達速度が速くなると推測している。

 私が代表を務めるNPOでは、普及のためサポーターとインストラクターを養成している。現在、サポーターは全国に約2千人、インストラクターが約千人。簡単な講習を受ければお年寄りでも指導者になれるので、特に北海道の過疎が進む自治体では、住民が主体的に健康づくりに関わるきっかけにもなっている。地域福祉の手法としても広く活用してほしい。

=2013/01/17付 西日本新聞朝刊=

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