【人の縁の物語】<3>故テレニン晃子さん手記「ゆりちかへ─」 生き続ける母の“伝言”

 ■出版から5年 反響今も

 5年の月日が流れても、本に託したメッセージは生き続けている。がんで闘病中に出産し、2年後の2008年2月に亡くなったテレニン晃子さん(享年36)=福岡県小郡市=が残した手記『ゆりちかへ ママからの伝言』(書肆侃侃房(しょしかんかんぼう))。幼い娘と過ごした限りある時間の中で、あふれる愛情を注ぐ姿が「命の大切さ」を伝え、著者亡き後も読者に共感を広げている。道徳の教材、文庫化、外国語翻訳、テレビドラマ化…。一冊の本が人の縁を育んでいく。

 「自分にできなかったことを子どもに託そうとする親は多い。でも彼女は、ありのままを受け入れ、自分で答えを導き出してほしいという姿勢だった。それが読む人の心を楽にさせ、勇気を与えるのだと思う」

 手記の書籍化を手掛けた書肆侃侃房の代表、田島安江さん(67)=福岡市=は本の魅力をそう語る。

 晃子さんは娘の柚莉亜(ゆりあ)ちゃん(愛称・ゆりちか)を妊娠した05年、脊髄部にがんが見つかった。出産後、苦しい治療の合間に「伝言」を書き留めていく。

 《けんかするのは別に悪いことじゃないですよ。でも大事なのはその後に仲直りすることです》《どっきどきの恋は楽しいよ》

 成長した娘が読むことを想像しながらつづった晃子さん。生きる勇気、親の愛…。行間にはさまざまなメッセージがにじむ。

 07年10月に出版。読者の反響は大きかった。3度目の増刷の際には田島さんが「最後のページの余白にメッセージを載せてみては」と提案。そこで晃子さんは電話口でこう伝えた。

 《この本をお読みになって、よろしければぜひ柚莉亜にお手紙を送っていただけるとうれしいです》

 手紙が届けば、自分がいなくなっても皆が見守っているという安心感を娘に与えられる-そんな思いを込めた言葉だった。「母の代わりをしてほしかったのでしょうね」と田島さん。寄せられた手紙は500通を超え、今も絶えない。

 道徳の授業の教材としても活用され、子どもたちからの感想文も届く。「このことを学校で知るまでは早く死にたいと思っていました」(中3男子)「お母さんとは、家族とは、とてもかかせなく大切なものだと思いました」(中1女子)

 今では7万部を超え、地方出版社としては異例のベストセラーとなっている。

 3年前の命日には幻冬舎から文庫化された。晃子さんと家族の絆を近くで見つめてきた田島さんも『もう一冊のゆりちかへ テレニン晃子さんとの日々』を幻冬舎から同時出版。この2冊がドラマ化のきっかけとなり、1月26日午後9時から、テレビ朝日系列で全国放送される。

 翻訳され、韓国や中国、台湾などでも出版されている。「たくさんの本を手掛けてきたけれど、この本は不思議な一冊。独り歩きをしているんです」と田島さん。晃子さんの分身として、子どもが育つように、すくすくと成長している。

 本についての問い合わせは書肆侃侃房=092(735)2802。

=2013/01/22付 西日本新聞朝刊=

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