ドラマ「ペコロス-」主演 イッセー尾形さんに聞く 母子のつながり 別次元 日常こそドラマチック

「一番受けた一人芝居はスーパーのおばちゃんかな」と笑うイッセー尾形さん 拡大

「一番受けた一人芝居はスーパーのおばちゃんかな」と笑うイッセー尾形さん

 長崎市在住の漫画家岡野雄一さん(63)が認知症の母とのおかしくも切ない日常を描いた漫画『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社)が、NHKのBSでドラマ化される。岡野さん役で主演するイッセー尾形さん(60)=福岡市出身=に、長崎ロケの感想や見どころを聞いた。

 -2日間の長崎ロケを終えた感想は。

 「長崎は不思議な空間だ。ロケはいきなり坂道の場面から始まったのだが、坂を上ると街全体が見渡せた。下の方からもこちらが見えていて、(街の人々が)お互いに見つめ合っている感覚がした。東京ではこんな体験はできない。坂はえらいしんどかったけど…」

 -福岡市で生まれ北九州市や長崎県佐世保市で暮らし、九州とゆかりが深い。

 「父が転勤族だったので長くは住んでいないが、博多に行くたび、僕にもふるさとがあったんだと小さな喜びがある。小さいころに吸った空気や見上げていた空の千切れ雲は、いくつになっても懐かしい」

 -出演を決める際に悩んだそうだが。

 「作品の内容にはとても共感したのだが、(ぽっちゃり形の)岡野さんとは体形的に別人だから、無理かなと…。それでもスタッフに説得され、恐る恐るドラマの世界に入った」

 -10万部を発行した原作の人気をどう受け止める。

 「岡野さんは自分とお母さんのために、過酷な日常をユーモアで描いている。その力により、認知症でたとえ意思疎通が遮断されても、母と子は別の次元でつながっているのではと思ってしまう。だからこそ、多くの共感を呼ぶのだろ
う」

 -背景には高齢化が急速に進む社会情勢もある。

 「その通りだろう。ただ、人間って認知症になるまでにもいろんな経験をす
る。学校に行き、友達ができ、友達を失い、社会人になり、結婚し、子どもを育て…。人生はドラマ満載だ。仮に母や父が認知症になっても、そこにたどりつくまでの人生を最後に肯定してあげる。あんたの人生、良かったよ、って。そんな内容の漫画だと思う」

 -何かそうしたことを感じる体験があったのか。

 「おととしの5月、母を亡くした。89歳、膵臓(すいぞう)がんだった。闘病中に薬のせいで意識がもうろうとする時期があり『あんたは一成(かずしげ)(本名)に似てると思うけど、一体どなたでしょうか』と言われた。がくぜんとした。突然、ほっぽり投げられた感じで、アイデンティティーを失った。ただ、その時、認知機能を失った側もがくぜんとしているんじゃないかと思った。それがこの作品に向かう入り口だった」

 -漫画では母に頭を差し出して触らせるのが大切なコミュニケーション。演じるにはペコロス頭(髪のない頭)が欠かせないが。

 「朝6時から1時間半かけて特殊メークをしてもらっている。薄いゴムを2枚重ねて貼り付け、自然な感じだ。ただ、半日もその頭でいるとかすかなコンプレックスが生まれてくるし、それゆえに男らしくあろうとも思う。何だかカツラと同化してしまった」

 -サラリーマン、警察官など、市井の多彩な生活者を一人芝居で演じてきた。

 「最初に演じたのはバーテンダー。当時、建築現場で働いていて、重い物を持ったり、くぎを踏み抜いたりする。そんな時に外をアロハシャツの男が軽やかに歩いている。勝手にバーテンさんだろうと想像し、そんな憧れをネタにした。そのうちに、一番ドラマチックなのは日常の人々だと気付いた。お客さんもそれなら、身近な世界を想像しやすい。丁寧にやりさえすれば共感してもらえる」

 -昨年8月、舞台の“休眠”宣言をしたが。

 「演出家から『休もうか』と言われた。30年やってちょうど還暦を迎えたし、一つの節目かなと。自分のスタイルをもう一回見直し、新たなスタートを切る」

 -ドラマのみどころを。

 「起承転結や大恋愛があるわけではないので、淡々と丁寧にペコロスに描かれている生活ぶりを演じたい。岡野さん親子の家にちょっとお邪魔する感じで見てもらい、見終わって優しい気持ちになってもらえればうれしい」

 番組は2月17日午後10時から、BSプレミアムで放送予定。再放送は同24日正午から。母親役は映画「Shall we ダンス?」などに出演した草村礼子さん。原作は1260円で全国の書店で販売中。本の問い合わせは西日本新聞社出版部=092(711)5523。

=2013/01/24付 西日本新聞朝刊=

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