【いじめ 背景を解く 臨床心理の視点】<上>弱者へのストレス発散 被害者は心の自由失う

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九大田嶌誠一教授

 いじめの心が見えない。加害者の生徒を問いただしても、理由ははっきりしない。加害者から被害者、被害者から加害者に転じるケースも少なくない。臨床心理学の視点から長年、いじめや暴力に向かったり、不登校に悩む生徒と向き合ったりしてきた九州大学人間環境学研究院の田嶌誠一教授(62)に、その背景やメカニズムを聞いた。

 -いじめる側から見ると、どんな心理や背景がうかがえるのか。

 田嶌 どんな理由があろうと、いじめは悪であり、いじめる側が悪いという視点を忘れてはならない。その前提で、いじめや暴力には三つの法則がある。

 (1)攻撃は出るべき相手にではなく、出やすい相手に出る(2)出やすい相手ならば、より攻撃は激しくなる(3)集団の中では容易に連鎖する-。

 まず、弱い立場の生徒が、いじめの標的になりやすい。「調子に乗っている」「生意気だ」。攻撃の理由はないに等しい。手っ取り早いストレス発散手段なのです。だから強者には向かない。

 例えば、いじめを受けている生徒が、掃除中に何かを誤って壊した場合、いじめは激しさを増す。加害者側には「しつけてやってる」といった意識も加わり、いじめはエスカレートしていく。いじめには嗜癖(しへき)性(中毒傾向)もある。行為自体が快感となり、より強い攻撃につながっていく。

 人は狭い空間でストレスに満ちた集団生活を続けると、いじめや暴力がひどくなりやすい。「学級王国」とも呼ばれるクラスも、閉鎖性の高い空間になりがちです。生徒が望む仲間ばかりで編成されていない「不本意な集団」でもあり、いじめも連鎖しやすくなる。

 -学びと育ちの共同体を目指す学校自体に、いじめを生みかねない土壌もあるということか。それにしても、被害を受ける生徒たちは、なぜ訴えないのか、逃げないのか。陰湿な報復、学校への絶望があったとしても、腑(ふ)に落ちない。

 田嶌 いじめには呪縛性があるからだ。魔術に掛かって動けなくなるように、いじめを受けている生徒も心の自由を失ってしまう。加害者を恐れ、抗(あらが)えない状況の中で、加害者側に親愛の情を覚えることさえある。それは、虐待を受けている子どもが、虐待する親を慕い、親から離されることに抵抗する関係と似通っています。

 -同じ年齢、地域の子どもたちで編成されるクラスでは、同じ考え方や行動を求めがちな「同質原理」がいじめの背景にあるとの指摘もある。

 田嶌 特定の生徒をいじめによって排除することで、いじめる側は同質な関係をより保てる。共通の敵や標的を設定することで、強い仲間意識が生まれるからです。

 外からは仲良しに見えるグループ内で、いじめが起こったりもする。いじめを受ける側は、グループから飛び出せばよいと思うが、同じ集団にいたいという同質原理が働き、いじめを受け続ける面もある。

 -いじめは小学校では高学年になるほど増え、中学校でピークを迎え、高校では減少する。

 田嶌 小学校高学年から中学校にかけ、子どもたちは自主的な集団をつくり、成長していく。その半面、特定の友達との濃密な関係も求め始める。性にも目覚め、子どもから大人へと変わっていく「第2の誕生期」を迎える。悩みや葛藤を抱え、屈折やひずみも生じやすくなる。

 -田嶌さん自身は、どんな思春期だったのか。

 田嶌 旧産炭地の福岡県大牟田市で生まれ育ちました。当時は荒っぽい土地柄で、周囲は暴力にあふれていました。私も時には荒れた。良いことを一緒にすることは、なかなかできないけれど、悪いことはすぐにできます。一緒にやった連中とはものすごく仲良くなれた。でも、上級生とけんかはしても、いじめはしていなかったと思う。ちゃんと自信を持って、迫力を持って、叱ってくれる先生がいたから。

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 ●九大 田嶌誠一教授

 九大在学中は、動作法(動作と姿勢を重視した心理療法)で知られる成瀬悟策さん(九大名誉教授)の研究室で学ぶ。田嶌さんは「壺(つぼ)イメージ療法」を考案、実践している。頭の中で壺をイメージしながら心の深い内面を探求する心理療法だ。不登校や引きこもりの生徒が学校に通えるよう、福岡市の当仁中学校で続く夜間教室「ステップアップスクール」を、大学生たちと一緒に運営、支援していることでも知られる。

=2013/02/19付 西日本新聞朝刊=

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