【いじめ 背景を解く 臨床心理の視点】<下>体験に基づく実感希薄 早期発見し学びの一歩に

「いじめ、体罰、対教師暴力の根っこは同じで、三つの視点を含めた対策が求められる」と語る田嶌誠一教授 拡大

「いじめ、体罰、対教師暴力の根っこは同じで、三つの視点を含めた対策が求められる」と語る田嶌誠一教授

 いじめの背景やメカニズムについて、19日付「上」に引き続き、九州大学人間環境学研究院の田嶌誠一教授(62)に聞いた。

 -いじめ、不登校、学級崩壊などの問題がクローズアップされたのは1980年代、バブル経済のころだった。田嶌さんはそのころから30年以上、子どもたちの姿を見ている。何か変化を感じますか。

 田嶌 子どもたちが「実感を伴って成長する」機会が減ってきていると思う。例えば、遊びの姿。

 かつては異年齢の子どもたちが群れ、外で遊んだ。ごっこ遊びでは、みんなヒーロー役をやりたいが、先輩がやるので、自分は悪役で我慢する。そうした疑似社会から、子どもたちは多くを学んでいた。

 しかし、あのころから同学年が少人数で部屋で遊ぶ傾向が強まっていく。知識や映像には満たされているが、体験に基づく実感が希薄な子どもが増えている。いじめの痛みやつらさに、思いを寄せられない子どもたちの背景には、そんな事情もあると思います。

 -大津市で中学2年の男子生徒が自殺した問題でも、検証に当たった第三者委員会は「学校や担任はいじめを認識できる状況にあったが、有効な対策を取れなかった」と指摘した。学校や教師はなぜそこまで無力なのでしょう。

 田嶌 率直に言って、教師は大変だ。教師と生徒の関係は大きく変わってきていて、指導が通らない状況が少なくない。児童生徒から教師への暴力も増えている。いじめに気付いたとしても、多くの教師は適切な指導ができるか、自信が持てない状況に陥っています。

 人は、自分がどうにもできないかもしれない問題について(1)否認(ないと思い込む)(2)選択的不注意(示すサインに鈍くなる)(3)過小評価(深刻ではないと思う)(4)思考停止(考えない)-といった反応を取りが
ちです。

 学校対応では(1)いじめの深刻度(2)いじめを受けている子どもや親の意向(3)子どもにどれだけ持ちこたえる力があるか-などを考慮する必要があります。しかし、多くの教師がいじめの深刻度を過小評価しがちです。自分のクラスに限って、といった意識がどこかにあるのでしょう。

 -どんな指導が有効なのだろう。

 田嶌 先生はいじめを断固として許さない、という姿勢を生徒にまず見せる。その上で、いじめを早期発見し、子どもたちにとっての学びの体験になるようにすることが大切です。いろいろなやり方がありますが、教師に指導力があるなら、被害者の同意を得た上で、現実のいじめをテーマに、クラスで討論するのも一つの方法です。

 教師が知らないだけで、いじめの事実を生徒は知っている。いろんな気持ちをはき出させることです。加害者は自己弁護するでしょう。被害者への不満も出るでしょう。でも、それだけで終わってはいけない。

 生徒たちに問い掛け、いじめは許されないことを突きつけ、叱ることが大切。クラスのみんなが、身近な現実から学ぶ一歩にしたい。被害者が仕返しを受けないように守る工夫や、いじめた側の生徒へのフォローも忘れてはいけない。

 教師が被害者に向かって「君の方にも問題がある」といった対応も少なくないが、これは子どもを傷つける。いじめをまず止めるべき時に、相手の側に立って考えるといった説諭をするケースも目立つが、まず毅(き)然(ぜん)と叱ることです。目の前で火事が起きているのに、消火をせず、予防対策をしているようなものですから。指導の優先順位を間違ってはいけない。

 -いじめ対策として、どんな視点が必要なのか。

 田嶌 学校には、いじめばかりではなく、体罰や対教師暴力を含め3種の暴力があり、それらは相互に関連している、という視点が重要だ。いじめも体罰も、対教師暴力も根っこは同じ。立場の弱い者への暴力だ。いじめは子どもだけの問題ではない。体罰をしている教師が、生徒に「いじめはやめよう」と言っても、説得力があるはずがない。

 いじめの構造として、被害者、加害者、観衆(面白がってはやしたてる)、傍観者(黙認)の4層構造が広く知られているが、その外側に学校、家庭や地域があり、5~6層構造になっていることも忘れてはならない。

 3種の暴力に対する学校や教師たちの取り組みや状況を「外部からモニター(点検)しつつ支援する仕組み」が求められている。外部から多くの視線が注がれる、風通しの良い学校づくりが大切だと思います。

=2013/02/26付 西日本新聞朝刊=

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