週末は農園 ロシアに学ぶ 菜園付き別荘「ダーチャ」 8割の世帯が野菜作り

『ダーチャですごす緑の週末』を執筆した豊田菜穂子さん 拡大

『ダーチャですごす緑の週末』を執筆した豊田菜穂子さん

 ■くらし天気図■ 
 平日は都市で働き、週末は郊外で農作業に汗を流す-。ロシアでは「ダーチャ」という菜園付きのセカンドハウスを多くの国民が持ち、食料の大半を自給するという。日本でも市民農園や農業体験農園への関心が高まっており、ダーチャは参考になりそうだ。『ダーチャですごす緑の週末-ロシアに学ぶ農ある暮らし』(WAVE出版、四六変形、182ページ、1680円)を出版したフリーライターの豊田菜穂子さん(56)に、ロシアのダーチャ事情を聞いた。

 -ダーチャとは。

 「最近では超高級なものも出てきましたが、一般的には一区画600平方メートルほどの土地を国から借りて小屋を建て、夏の間に野菜や果樹を作って家族の食材を確保するシステムです。2003年のロシア国家統計局のデータによると、国内3400万世帯の8割が菜園を持つか、野菜作りの副業を行い、ロシアのジャガイモ生産量の92%を賄っていました」

 「モスクワ州のダーチャ所有家族328世帯の野菜の収穫量(600平方メートル当たり)を調査すると、ジャガイモ240キロを筆頭に、相当の作物を自給していました=グラフ参照。1990年代前半、ソ連崩壊後の混乱でモノ不足に陥ったロシアで餓死者が出なかったのは、ダーチャがあったからだといわれています」

 -成り立ちは。

 「17年、レーニンが農民たちに、地主階級から没収した土地の再分配を約束した十月革命にさかのぼります。その後、申し出があれば、自留地と呼ばれる個人の土地が与えられたのが、今日のダーチャの起源とされています。慢性的な食料不足という問題を抱えていたロシアでは、土地はあっても食料を買う外貨がない。そこで都市住民を兼業農家にしたというのが、現地ガイドの説明でした」

 -いわゆる別荘とは違うのですか。

 「富裕層は別ですが、日本のようにお金に余裕のある人が好きな土地を買って住むわけではなく、管理組合があり、ダーチャ村として管理されています。しかも割り当てられるのは区画だけなので、土地を開墾して農地にするのも、小屋を建ててトイレや井戸など住める環境に整えるのも、自分たちの手で行うのが一般的です」

 -経済発展で考え方に変化はありませんか。

 「平日は街で働き、週末はダーチャで過ごすというのが平均的な都市住民の姿です。だからモスクワでは金曜日の夕方になると、都市住民がダーチャを目指して一斉に郊外へ向かうため、道路が『ダーチャ渋滞』するほどです」

 「ロシアでも、野菜は買った方が安い時代に入った感はあります。でも安全な野菜を家族に食べさせたいという人、年金暮らしの人などはダーチャで野菜を作り続けているし、そうでない人は田舎でゆっくり過ごすことを優先しています」

 -まさに農ある暮らしですね。

 「ロシアの学校の夏休みは3カ月。両親は共働きが一般的なので、子どもは夏の間、祖父母と一緒にダーチャで過ごし、後から両親が合流するというパターンも多い。そこで自然との付き合い方や祖父母の知恵を学ぶといいます」
 -生きる力は、日本人よりロシア人の方が数段上のようです。

 「お金も電気も機械も使わず、自分の頭と体で何ができるか。ダーチャで生活力を養っているロシア人は、農民にも大工にもなれるから、経済危機も自分の力で乗り越えることができたのでしょう。原始的な技や古来の知恵を侮ってはいけない、と教えてくれるダーチャ。それは便利さの中で全てをお金で買う生活に少しでも疑問を持つ人たちにとって、暮らしを見つめ直す鏡になると思います」


=2013/03/20付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ