自宅療養者に訪問栄養指導 公的保険の対象 管理栄養士が助言

今泉惣一郎さん(右)の自宅で、訪問栄養指導に取り組む管理栄養士の高橋愛子さん(左)。妻のマサ子さんに持参したうどん汁を試飲してもらった=福岡県須恵町 拡大

今泉惣一郎さん(右)の自宅で、訪問栄養指導に取り組む管理栄養士の高橋愛子さん(左)。妻のマサ子さんに持参したうどん汁を試飲してもらった=福岡県須恵町

 管理栄養士が、自宅で療養中の患者の元に出向き、食事の助言をする「訪問栄養指導」。1994年から公的医療保険の対象だが、実施する医療機関は少ないとされる。ただ今後は、自宅で最期まで過ごしたい人にとっては、心強い味方になるかもしれない。どんなサービスか。2010年から取り組む医療法人社団正信会・水戸病院(福岡県須恵町)の活動を取材した。

 午前10時前、須恵町の民家に、水戸病院で管理栄養士を務める高橋愛子さんが訪れた。住人で患者の今泉惣一郎さん(79)に栄養指導をするためだ。

 「食欲はいかが?」「便秘はしていませんか」。そんな問い掛けをしながら体調を探る。食事を作る妻のマサ子さん(75)には、水筒に持参したうどん汁を試飲してもらい、塩分控えめの味を確認してもらった。

 惣一郎さんは肝臓を患って入院し、昨年5月末に退院。ただ、自宅でも食事に気を付けないと、再び悪化する恐れがある。そこで月1、2回の訪問栄養指導を受けるようになった。

 今の体調は良好。マサ子さんは「どうしたら塩分を少なくできるかなどいろいろと教えてもらい、本当に助かっています」と話す。

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 水戸病院が訪問栄養指導に乗り出したのは、寝たきりの80代女性を担当していた訪問看護師のSOSがきっかけだった。女性は80代の夫と2人暮らし。栄養状態が悪く、褥瘡(じょくそう)が治らないままだった。訪問看護師が「夫やホームヘルパーさんが簡単に用意できる栄養価の高い食事について助言を」と求めてきたのだった。

 水戸病院では現在、糖尿病の1人暮らしの男性、糖尿病と認知症を患いながら1人で生活する80代女性など計5人を、2人の管理栄養士で手分けして訪問している。訪問するたびに指導内容を報告書にまとめ、主治医や訪問看護師に報告することも欠かさない。

 「これは駄目、あれも駄目、と多くを否定する食事指導ではうまくいかない」と杉原千恵栄養課長(管理栄養士)。(1)普段の食事内容(2)食事を作るのは誰か(3)どんな食材や調理器具を使っているか(4)食品の管理状態-などさまざまな事情を把握した上で、無理なく実行できることを少しずつ助言するのが効果を上げるコツという。参考となるメニューを紹介したり、一緒に食事を作ったりすることもある。

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 白橋斉院長は「訪問栄養指導は、患者の在宅療養を継続させるのに有用」と強調する。自宅での食事が不適切なために再入院せざるを得ない患者もおり「栄養指導で、その点を解消できるから」だという。

 課題もある。患者側には「好きなものを食べたい」という食事指導そのものへの拒絶感があったり、自宅に入られることへの抵抗感があったりする。杉原課長は「そもそも水戸病院がこのサービスに取り組んでいることが地域にあまり知られていない。在宅医療の充実に欠かせないことを含めPRに努めたい」と話す。

 白橋院長は実施機関の「少なさ」も問題視。「自宅で最期まで過ごしたいと願っても、実施機関が近くになくて入院するケースも多いのではないか。もっと増えてほしい」と願う。その上で「このサービスを担う管理栄養士にはコミュニケーション能力、患者の体の状態や生活環境を踏まえて食事内容を考える力が一層求められる。人材育成も社会的な課題」と指摘する。

 ●全国で38人が認定資格取得

 日本栄養士会(東京)は、専門の研修を受けて必要な知識と技量を身に付けた管理栄養士を「在宅訪問管理栄養士」として認定している。2011年度から取り組み、これまでに全国で38人を認定。うち九州は2人で、山口内科(福岡市早良区)の水島美保さんと、長崎市医師会医療センター診療所の古川美和さん。

 研修は有料で、全国在宅訪問栄養食事指導研究会(訪栄研、東京)と連携して実施。12年度は711人が受け、今年6月に合否が決まる見込み。新年度の受講生も募集中。研修は通信教育、関東・関西地区でのワークショップ(12月に2日間)で試験などもある。問い合わせは訪栄研事務局=03(3981)7281。

 ただ、この資格を取得しなくても管理栄養士であれば訪問栄養指導はできる。

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 【ワードBOX】管理栄養士による訪問栄養指導

 公的医療保険では「在宅患者訪問栄養食事指導」が正式名称。介護保険にも「居宅療養管理指導」で盛り込まれている。管理栄養士がどちらで実施するにしても、対象は通院困難な患者で、医師の指示が必要。1回当たり30分以上の指導が義務づけられ、訪問回数は月2回まで。1回当たりの診療報酬、介護報酬はいずれも原則5300円。患者の自己負担は介護保険なら1割の530円。実施機関数について、九州厚生局は「届け出制や認可制でないので把握していない」。

=2013/03/22付 西日本新聞朝刊=

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