【人の縁の物語】<11>便利屋さん、話聞いて 増える相談“駆け込み寺”

 お困りのときはご相談ください-。便利屋さんのチラシがたまにポストに入っている。どんなことを頼めるのだろう。引っ越しや掃除など肉体労働の印象があったが、最近は話し相手や結婚式の代理出席など“訳あり”の仕事も増えているそうだ。やはりそこにも「無縁社会」といわれる時代背景があるのだろうか。

 午後9時、電話が鳴った。依頼と思いきや「土地が思い通り売れなくてね…」。おばあさんのか細い声で身の上話が始まった。愚痴は延々30分続いた。次の仕事がある。申し訳なさを抱えながら途中で電話を切った。

 「便利屋やまこむ」(福岡市)を営む山本茂さん(46)は建築会社を退職後、5年ほど前に開業。手先が器用で実家の補修や機械修理をしていたら、近所で評判になったのがきっかけだ。当初は剪定(せんてい)や掃除の依頼が多かったが、この1、2年で増えているのが「話を聞いて」。たいていは1人暮らしの高齢女性だ。

 3時間、昼間のうどん店で聞いたこともある。夫に先立たれ、頼れる親戚はいない。若いころの写真を手に、夫とのなれそめ、子育ての思い出…。月に1度のペースで10回ほど聞き役をやった。

 10分で終わる電球の取り換えで、1時間近く話し込まれたこともある。寂しいのだろう。でも必要以上に親身にならないよう心掛ける。「いろいろしてあげたくなると採算が合わない。こちらも生活があるから」

 こんな依頼もあった。「説教や助言はいらない。ただ黙って聞いてほしい」。まるで親友に言うせりふ。力仕事を知人に手伝ってもらうと借りができて面倒だから、プロに代金を払った方が楽と考える人もいるという。

 結婚式の代理出席も。無職の新郎が「体裁が悪いから上司役を」という依頼が多い。「身内でこぢんまりでは済まない、見えやしがらみがあるんでしょうね」。スピーチをしたこともある。

 ☆ ☆

 「借金が増えてどうしようもない」。男性が切羽詰まった声で電話してきた。「便利屋快適生活サポート」(同市)の古澤拓也さん(45)は、じっくり話を聞いた後、専門の弁護士を紹介した。

 古澤さんは自分の仕事を「困り果てた人がやって来る駆け込み寺のような所」と表現する。不況で生活が苦しいが誰も頼れず、相談先も分からずに連絡してくる。「生きるか死ぬかというときに頼るのが、家族や知人でなく便利屋というのも寂しい世の中ですね」

 別れ話に同行したり、字が下手な人の手紙を代筆したり。遺品整理も数回受けた。若い世代からは簡単な家具の組み立て依頼が多い。「何でも完成品を手に入れてきたのでしょう。生きる知恵が少ない」。ゴキブリ1匹の退治依頼もあった。

 法に反する以外、可能な限り要望を引き受ける稼業。山本さんは「一昔前なら近所でおせっかいなぐらい協力し合っていたから、出る幕はなかったでしょうね」と言う。

 半面、今でも機械やインターネットでは解決できない「生身の人間が不可欠な依頼」があるからこそ成り立つ仕事でもある。「やっぱり人には人が必要なんでしょう」と山本さん。部屋にはなじみ客から「いつもありがとう」ともらったスイセンが飾られていた。

=2013/03/26付 西日本新聞朝刊=

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