【山っ子たちの春】<上>小さな学校だからこそ

卒業式で在校生たちに感謝の言葉を述べる(右から)ちえりさん、魁成君、天星君 拡大

卒業式で在校生たちに感謝の言葉を述べる(右から)ちえりさん、魁成君、天星君

 山里の小学校には、地元の子どもたちばかりでなく、街中からも路線バスに揺られ、小1時間かけて通学してくる。福岡、佐賀の両県境に近い曲渕(まがりふち)小(福岡市早良区)。市の小規模校特別転入学制度を活用し、校区外の児童も受け入れ、地域の学舎(まなびや)は存続する。この春、3人が卒業、8人が入学してくる。新年度は児童数28人となり、先生も1人増える。山っ子たちの春を追う。

 〈たとえばきみが傷ついて くじけそうになったときには〉。3月18日にあった卒業式。〈仰げば尊し〉が歌われなくなったのは、いつごろからだろうか。〈ビリーブ〉の歌声がいつになく染みいる。

 卒業式には通常、卒業生と5年生だけが出席する。しかし、児童数の少ない曲渕小では、全校児童が出席する。1年生まで気持ちを込め、歌っているのが伝わってくる。

 卒業生は大塚ちえりさん、岸川魁成(かいせい)君、庄崎天星(たかとし)君。みんな校区外から6年間、この学校に通った。

 在校生全員が次々に立ち、贈る言葉を述べるのも、この学校ならでは。「いつも笑顔で、みんなを楽しませてくれましたね」「覚えていますか、図工の授業で…」「サッカー、楽しかったよ」。3人の教室やグラウンドでの様子が浮かんでくる。運動会を盛り上げてくれた地域の人々や在校生の父母たちも出席して、門出を祝った。

 3人には忘れられない出来事があった。

 一斉下校するバス内でのマナー問題。みんな仲良くなればなるほど、おしゃべりに夢中になり、乗客から注意を受けた。6年生の3人は交代で「バスリーダー」を務めたが、統率できない。2学期に入ると、ついに年配の女性から学校に苦情の電話が入った。

 「失敗してもいいから、自分たちでみんなを動かしてごらん」。担任の堤良彦先生(43)の言葉に、3人は背中を押され、体育館で緊急集会を開いた。「どうしていいのか分かりません」。泣きながら訴える3人に、下級生たちは静まりかえった。

 「この学校って、まとまっているけど、変に平等。上下やタテの関係も必要」。3人はそう考え、「学年ごとのサブリーダー」(リーダー分業)なども導入することでマナーを改善していった。そしてある日、注意を受けていた年配の女性に、「ごめんなさい」と3人で頭を下げた。

 「うれしかったです」。年配の女性から後日、学校に電話が入った。先生たちは知らなかった。子どもたちが自ら考え、勇気を出して行動したことを。

 複式3クラスの曲渕小は、学校全体が「異年齢の少人数学級」。小さな学校だからこそ出合えた、学びの一つだった。

 3人とも徒歩で通学できる小学校があるのに、なぜ曲渕小を選んだのか。父母たちの話はこうだ。

 ちえりさんはかつて200人規模の保育所に通っていた。活発な子どもがもてはやされがちで、発表などの機会が多い、この学校を選択したという。魁成君の場合は「経験や体験を重視した教育が、これから人として成長する礎になる」。天星君は「公園に集まって携帯ゲーム機で遊ぶより、自然の中で駆け回ることが好き」が理由だった。

 校区内の小学校に対する、いじめや不登校への懸念もあったようだ。学校現場でさまざまな問題が噴出する中、親子は悩みながらも、ゆっくりでもいい、学力よりもっと大切な何かを求め、この学校を選択したように思えた。

 4月からちえりさんは、同じように校区外通学を認める島の中学校、魁成君は街中の私立中、天星君は歩いて通える校区内の中学校に進学する。

 卒業式を終えた教室。3人を前に、堤先生は黒板に「優しさと強さ」と記した。「みんなこれからいっぱい傷つき、悩むだろう。優しさだけでも、強さだけでも乗り越えられない。この両面を自分の中で育てていってください」。最後の授業はそう結ばれた。

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 【ワードBOX】小規模校特別転入学制度

 過疎・高齢化、少子化に伴い、児童数が減少した学校存続のため、校区外からの通学も弾力的に認める制度。海や山に囲まれた学校に適用されるケースが多く「海っ子山っ子スクール」と呼ばれる。福岡市では2005年度に導入され、曲渕小のほか能古小(西区・能古島)、勝馬小(東区・志賀島)、能古中の計4校で実施されている。曲渕小では05年度に導入され、当初は地元児童と校区外から通ってくる児童が半々だったが、ここ数年は校区外通学が8割を占める。

=2013/04/02付 西日本新聞朝刊=

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