【おなかの命は…出生前診断】<2>不安 社会の支えがなければ

羊水検査の結果を知らせる書類。おなかの赤ちゃんの染色体の状態を示す図が並ぶ 拡大

羊水検査の結果を知らせる書類。おなかの赤ちゃんの染色体の状態を示す図が並ぶ

 ■こんにちは!あかちゃん 第4部■
 
 40歳という自分の年齢を考えると、妊娠する可能性は低いと思っていた。それだけに、子宝に恵まれたことが分かると、うれしさがこみ上げた。

 「でも、それと同時に不安も募ってきたんです」。福岡県久留米市の由美さん(44)は、第1子をおなかに授かった4年前のことをそう振り返る。

 「高齢出産では、赤ちゃんに染色体異常が起きやすい」-そんな内容の記事を女性誌で読んでいたからだった。実際、母親の年齢が上がるほど胎児の染色体異常の発生率が高くなるのは事実。「出産までの10カ月間、赤ちゃんに異常があるかもしれないという不安な気持ちを抱えたままではいられない」と出生前診断の一つ、羊水検査を受けた。

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 40歳で結婚した。いわゆる晩婚。それまで東京で事務として働いた。仕事一筋だったわけではなく「適齢期といわれる時期に良い縁がなくて」。中学の同級生だった夫と再会し「1人で生きるより2人で助け合う人生を」と夫婦になった。

 出生前診断を受けたのは自分たち夫婦の体力に不安もあったからだ。子どもが成人になるころに還暦。もしも重い障害があれば、自立は難しいかもしれない。自分たちが先立った後はどうなるのか。夫婦で話し合った末の検査だった。

 結果、胎児に異常は見つからなかった。「ほっとした」という由美さんは、出生前診断について「私のような高齢出産の場合、必要な検査だと思う」と話す。

 厚生労働省の人口動態統計(2011年)によると、出産する女性の4人に1人が35歳以上。今の日本では、高齢出産が当たり前の風景になっている。

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 福岡県北部でダウン症の長女(1)を育てる恵さん(36)は、自宅近くに必要な訓練施設や医療施設がなく、困難さを感じている。言語や遊びの訓練ができる施設に月に数回通うが、車で約1時間もかかる。

 長女はダウン症の合併症で甲状腺の病気もあり、薬を処方してもらうために月1回の通院が必要だ。やはり車で1時間かかる。1歳になるまでは、夜中に体調を崩すこともしばしばあった。恵さんは常に宿泊の準備をして長い道のりを運転し病院に向かった。

 会社員の夫も育児に積極的だが仕事が忙しい。どうしても恵さんが踏ん張らなければならない場合が多く「精神的にも体力的にきついときがあります」。

 今月、車で20分ほどで通える障害児の通所施設があり、利用を申し込んだ。ほかの子と触れ合う機会をつくってあげたかったから。だが「定員がいっぱいで」と断られた。障害児を育てることは「障害にぶつかることの連続」と実感する。

 昨年秋、出生前診断を特集したテレビ番組を見た。おなかの子に障害があると分かり、苦しむ家族の姿が映っていた。「中絶を選ぶ人もいる」という現実も紹介された。障害児を育てる親として、障害児を排除してほしくないと思う。半面「中絶を選ぶ女性を責められない」思いも抱く。障害児を支える公的制度や社会的環境が不十分で子育てが大変だと痛感しているからだ。

 妊娠中は出生前診断について知識がなく、検査を受けることはなかった。「今となっては受けたかった。娘の障害が分かっていたら、中絶していたかもしれない」。苦悩の表情を見せながら、そうも語った。

 (文中仮名)

 ●高齢出産の増加 解消を

 由美さん=仮名=を取材して記者の私(32)が感じたのは、出生前診断の問題を考えるとき、高齢出産が増えている実態に私たちはもっと向き合うべきではないかということだ。

 この20年で2300人の出生前診断をした福岡市内の婦人科医によると、検査を望んだ理由の8割は「高齢出産」。胎児に異常が起きる可能性が高くなる高齢出産に直面し、検査の必要性を感じる妊婦が多いのが現実だ。

 高齢出産が増えた背景として、女性の高学歴化や社会進出が挙げられる。女性が職場で認められたり昇進したりするには「仕事一筋で家庭をあまり顧みない」男性並みに働かなくてはならないことが多い。育児休業が取りにくい雰囲気も残る。仕事と育児の両立がもっと容易にできるよう、私たちは職場や公的な育児支援制度の在り方をもっと考えていくべきだ。

 出生前診断によって命の選別が助長されることがないようにするために、福祉制度の充実も欠かせないのは間違いない。由美さん、そして恵さん=仮名=を取材して、あらためて実感した。


=2013/04/11付 西日本新聞朝刊=

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