【おなかの命は…出生前診断】<1>決意 親が傷を背負っても…

 白黒の画面に、おなかにいる3センチほどの赤ちゃんが映った。福岡県内の病院の産科。超音波画像で小さな命を確認しながら、智子さん(36)=仮名=は顔をこわばらせた。診察台に横になった智子さんの腹部に、医師が長さ約20センチの細い針を刺していた。

 昨年暮れ、妊娠3カ月だった智子さんは、胎児の異常を調べる出生前診断の一つ、絨毛(じゅうもう)検査を受けたのだった。

 検査の直後、覚悟していた事態が起きた。トイレで大量出血した。検査のリスクである流産の症状だった。駆けつけた夫の顔を見て、智子さんは泣いた。

 だが翌日、小さな命は智子さんのおなかで生きていた。流産は免れていたのだ。年明け、検査の結果が分かった。胎児に異常は見つからなかった。

 現在、妊娠7カ月を迎えた。智子さんは膨らんだおなかに手を当て、当時の決意を明かした。「検査で異常が見つかったらおろすつもりでした」

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 智子さん夫婦には2歳の長女がいる。不妊治療の末に授かった第1子で、妊娠8カ月目の妊婦健診で、頭蓋骨の異常が見つかった。脳の障害などを起こすまれな病気。智子さんは泣いた。産後は母乳が出なかった。

 長女は生後1年の間で、5時間に及ぶ頭の手術を3回受けた。頭蓋骨を切られて、大きな傷が残った。「こんなに小さいのにかわいそう」と親戚。智子さんは追い詰められた。「産んだ私が悪かった。私のせいで子どもを苦しめている」

 「智子は強いから子どもに選ばれたんだよ」と励ます人もいたが、智子さんは「あなたは選ばれたいの? 病気の子が欲しい?」と心で反発した。

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 智子さんが第2子を宿したのは、長女の治療が一段落した昨年秋。喜びと同時に、おなかの子の健康が気になった。

 第2子には長女のような目に遭わせたくない-。出生前診断を受け、異常が見つかれば中絶すると決意したのは、そんな思いからだった。

 ただ、決断までの夫婦の葛藤は深かった。小さな命を私たちが奪っていいのか。そうすれば一生罪悪感に苦しむ-。中絶で自分たちが受ける痛みと、障害がある子が直面するであろう大変さをてんびんにかけ、悩み抜いて答えを出した。「子に苦労させるぐらいなら、自分たちが傷を負って墓場まで背負っていこう」と。

 おなかの中で第2子が順調に育つ今、智子さんは出生前診断を受けてよかったと思っている。検査で見つかる異常は一部にすぎないが「少しでも不安を取り除きたかった。健康な子を望むのは、親として当たり前ですから…」。

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 出生前診断の新型検査が今月、全国で始まった。智子さんが受けた従来型とは違い、妊婦の採血だけで済み、流産の危険もない。九州では九州医療センター(福岡市)と長崎大病院(長崎市)が実施し、すでに12人が受けた。一方で命の選別を助長しかねないとの懸念もある。進歩を続ける出生前診断への人々の思いを追った。

=2013/04/10付 西日本新聞朝刊=

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