【おなかの命は…出生前診断】<3>成長 子育ての悩み 誰にでも

カレー店で働く家原瑛さん(左)。自分の店を開くことが将来の目標という 拡大

カレー店で働く家原瑛さん(左)。自分の店を開くことが将来の目標という

 ■こんにちは!あかちゃん 第4部■ 
 カレーの香りが広がる調理室で、家原瑛(あきら)さん(26)は手際よく玉ネギの皮を両手でむく。「上手ですね」と別のスタッフに声を掛けられると照れ笑いした。

 福岡市城南区片江5丁目のカレー店「もりぞう」。障害者に最低賃金を保証した上で本格的な就労に向けて支援する福祉事業所だ。ダウン症の瑛さんは2011年12月から働く。週20時間で調理補助や接客が仕事。「お客さんと話ができるのが楽しい」と話し、ここに通う動機を「自分でお金を稼ぎたいから」という。

 父母と3人で暮らす家から自転車で1時間弱かけて通勤する。当初はバスや地下鉄を乗り継いでいたが、節約のため自転車にした。月の給料から食費として1万円を両親に渡し、携帯電話代も自分で払う。給料の3分の1は貯金している。

 将来の目標は「自分の店を開くこと」。1人暮らしをしたいとも考えている。

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 染色体の21番目が1本多いダウン症は、胎児の染色体異常を調べる出生前診断の対象だ。症状は多様で、心臓の合併症を伴うなど重い障害がある人もいれば、軽い知的障害だけで就労に至る人もいる。

 瑛さんに合併症はないものの、母の智恵さん(55)によると「数字に弱く経済感覚が鈍い」。給料の使い方は智恵さんが提案した。「いずれは家を出る目標をかなえてあげたい」と見守り「障害があっても福祉や人の支えがあれば人生を楽しめる」と考えている。

 そんな智恵さんも第2子の瑛さんが生まれた時は苦しんだ。そもそも育て方が分からず、途方に暮れた。

 第3子を妊娠した時は出生前診断の一つ、羊水検査を受けた。障害児がもう1人増えた場合、子育てをする自信はなかった。「嫁」として夫の実家に申し訳ない思いもあった。「あの時の私は弱かった」と語る。

 瑛さんが療育施設や特別支援学校に通うにつれ、智恵さんも同じ立場の親たちとの交流を深めた。「ちゃんと成長する」ことを教えられ、励みになった。

 特別支援学校の高等部を卒業し、18歳から就労訓練施設に通うようになって、智恵さんは目からうろこが落ちる経験をした。施設側は障害があるからといって甘やかさず、社会人として時間を厳守することや作業をきちんとこなすよう指導した。それに驚いたのだ。

 「障害がある瑛は大きくなっても普通の人と同じようなことはできないと思っていた。間違った見方をしていました」と振り返る。

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 「僕も結婚したいなあ」‐ここ数年、瑛さんはそんな思いもしばしば口にするようになった。智恵さんは「普通の若者が抱く、普通の願望」を語るようになったことがうれしい。半面、心配にもなる。「もし現実に相手が見つかり、結婚の許しを請われたら…」

 世の中には子の未婚を心配する親は多いが、智恵さんは違う。「結婚して家庭を築くことは、さまざまな社会的責任も負い、完全に親から自立しなければならない」。今の給料と障害者年金を合わせても、家族を養うまでには至らない。

 とはいえ、先天性の障害がなく生まれた長女(29)も大学生の次男(20)も壁にぶつかり、その都度、親として心を砕いてきた。3人とも成人になったが「いまだにどの子も心配が尽きない」。だから、もし、昨年結婚した長女から出生前診断について相談されたら、こう言ってあげるつもりだ。「受けなくても大丈夫よ。障害があっても、なくても子育ての悩みは同じだから」

 一方、個人差はあるもののダウン症の人は老いが早いとも聞く。「瑛はいつまで仕事ができるだろうか」とふと考えることもある。

 ●検査の意味よく考えて

 妊娠中である記者の私(32)は、胎児の染色体異常を調べる出生前診断を受けなかった。理由の一つは、智恵さんと瑛さんとの出会いがあったからだ。「障害があっても大丈夫」と励まされた気がしたのだ。

 私は出生前診断の主な対象とされるダウン症の人たちの暮らしをどれだけ知っていただろう。瑛さんのような人もいる。一方で心臓に病気を伴って生まれてくる人もいる。私の中学校時代の後輩には、瑛さんのように上手に話せず、意思疎通に時間がかかる女の子もいた。一口にダウン症といっても、障害の程度はさまざまなのだ。

 そして、出生前診断はダウン症は見つけるが、その障害の程度までは分からない「不完全な技術」ということも、取材したある医師が強調していたことだ。

 同じ障害でも重いと感じるか、軽いと感じるかは、人それぞれの家庭環境や価値観によって違うだろう。だから、これから出生前診断を受けるか悩んでいる人に、私は「ダウン症でも大丈夫」と言うことはできない。それでも妊婦さんやその家族には、出生前診断を受ける前に、その意味をよく考えてほしいと思っている。


=2013/04/12付 西日本新聞朝刊=

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