【山っ子たちの春】<下>先生も1年生 共に成長

入学式の翌日、新1年生は国語の教科書を開き、折り目を付けた。「はるのはなさいたあさのひかりきらきら」と声に出して読んだ 拡大

入学式の翌日、新1年生は国語の教科書を開き、折り目を付けた。「はるのはなさいたあさのひかりきらきら」と声に出して読んだ

全校児童、教職員で食べる新学期最初の給食。1年生の中には、お代わりをした子もいれば、食べきれなかった子も

 鳥のさえずりとせせらぎの音が山里の春を奏でる。曲渕小(福岡市早良区)の新学期が始まった。

 新入生8人が加わり、複式1・2年生のクラスは、前年度から倍増して10人になった。入学式翌日の12日。先生も加配で1人増えたので、2年生は途中から別室で授業を受け、1年生はせいかつの授業で学校生活の基本を学んでいた。

 「背中はピン、足は床にペッタン、机とおなかにグー一つ」。学習姿勢から始まり、ランドセル、体操服、水筒を置く場所、全校児童での給食、掃除の仕方や分担…。1年生には覚えることがいっぱいある。

 担任は前年度に引き続き田中絵理先生(27)だが、黒板には「こばやしえり」と名前を書いた。今月結婚して姓を変えるからだ。

 声に出して思ったことを言おうの「こ」、バス通学は安全に気を付けての「ば」、友達にやさしくの「や」、しっかり勉強しようの「し」と自己紹介した。

 こばやし先生もこの3月まで、先生1年生だった。講師として3年間、他校で算数や音楽の授業を担当したことはあったが、教諭として採用され、曲渕小で初めて1・2年生の複式学級5人を担任した。

 「やるべきことをやらずに、平気であってほしくない」。先生にはそんな思いが強く、事あるごとに口を酸っぱくした。

 時間を守る習慣も身に付けてもらいたかったので、早めに着席する「5分前行動」も徹底しようとした。だから「早くしなさい」が多くなる。先生自身も時間に追い立てられていた。

 授業では、子どもたちの発言の秩序づくりが課題だった。小さなクラスだけに、先生を独り占めにしたくなるのだろう。子どもたちはわれ先にと、話し掛けてくる。「ちょっと待って。手を挙げて、きちんと発言しよう」も多くなった。

 3学期の終了式。担任1年目を終えるにあたり、子どもたちに伝えた言葉は「ありがとう」。涙声で話し終えると、ある児童があきれ顔で「先生、ホント1年間、よく怒ったよね」。泣き笑いになった。

 この春着任した福沢弘一校長も校長1年生だ。前任は街中の小学校の副校長だった。

 教員大量採用の時代、大学を卒業後、すぐに小学校の教壇に立った。最初に担任したのは2年生だった。

 「子どもたちに分かる言葉でどう伝えればいいのか。大学時代、家庭教師もやっていたので、その延長でやれると思ったが、難しかった。算数の授業は自分なりにできた。でも、国語は45分授業が20分で終わってしまう。教え込むばかりで、子どもたちの考えを引き出す授業ができなかった」

 先生たちも1年生から成長していく。

 新1年生の多くは、母親たちが口コミで曲渕小のことを知り、毎年11月にある体験入学会に親子で参加。在校生たちからプレゼンテーション(学校紹介)を受け、一緒に芋掘りをする中で学校風土を気に入り、入学を決めた。

 ある児童は本年度、保育所にも幼稚園にも通えないまま、入学してきた。

 母親(31)によると、3人きょうだいの長子で、赤ちゃんが生まれたばかり。家事や育児に追われる中、保育所を探し回ったが、「待機児童」の壁に阻まれた。幼稚園は月謝が高く、家計が許さなかった。集団生活への不安もあり、入学を決めたという。

 離島出身の親が「同じように豊かな自然の中で育ってもらいたい」と、入学を選択したケースもあった。それぞれの親子の選択があったようだ。

 今週から曲渕小は春のカリキュラムに彩られる。16日の1、2時限目は、地域住民の指導を受けながらのタケノコ掘り、19日はダム近くの公園への遠足が予定されている。

 新1・2年生は放課後、先生と一緒に鬼ごっこやボール遊びをして駆け回った。緊張気味だった1年生に笑顔と歓声が広がる。2年生になったばかりの女の子2人にも、少しずつ「上級生」の自覚が芽生えつつあるようだ。

 「今度、一緒に遊ぼ」「うん、いいよ」

 山っ子たちの春が膨らんでいく。


=2013/04/16付 西日本新聞朝刊=

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