【おなかの命は…出生前診断】<6完>臨床遺伝専門医 斎藤仲道さん 倫理学者 波多江忠彦さん

 ■こんにちは!あかちゃん 第4部■ 
 出生前診断は赤ちゃんの命を救うために、一方で命の選別のために使われることがある。実施の公的ルールはなく、多くの妊婦や家族が検査を前に苦悩している。この医療技術をどう考えたらいいのか。倫理学者の波多江忠彦さん(70)と、臨床遺伝専門医として出生前診断に長年携わる斎藤仲道さん(72)に聞いた。

 ●不十分な社会保障が問題 臨床遺伝専門医 斎藤仲道さんに聞く

 日本では出生前診断を国が医療として認めていないのが実情だ。母体保護法で、胎児の障害を理由にした中絶を認めていないことが背景にある。検査費用は公的医療保険の対象外で全額自己負担。検査を受けるかどうかも妊婦や家族の自由選択、自己決定となる。

 しかし果たして、妊婦や家族が公正に自己決定できているといえるだろうか。

 現代には家庭内だけで子育てをしている人はいないだろう。まして障害や病気のある子を迎えた家族は、より手厚い社会の支援がなければ苦労は大きくなる。しかし、国は膨らみ続ける社会保障費をいかに減らすかを議論しており、障害児を育てようという家族の不安は増すばかりだ。

 こうした状況下では、妊婦たちが障害児を産むことをためらうのは当然で、出生前診断を検討せざるを得ない。「自己決定」ではなく、不十分な社会保障によって検査にベクトルが向いているのではないか。

 米カリフォルニア州政府は、出生前診断の一つ、母体血清マーカーの公式パンフレットを作って妊婦に配布している。検査を受けるかは妊婦に委ねられるが、専門的な知識を持つ遺伝カウンセラーによる丁寧な相談体制があり、障害のある子を産む選択をしても公的支援が充実しているという。日本では遺伝カウンセラーも不足している。

 検査を受けるかどうか、検査後に産むか産まないか‐。夫婦がどれを選んでも不利益にならない社会保障が整わなければ、出生前診断の議論は進まないだろう。

 ▼さいとう・なかみち 1940年生まれ。九州大の医学部を卒業し産婦人科へ入局。米ジョージ・ワシントン大に留学し、33歳で山口県下関市に開業。九州労災病院や済生会福岡総合病院の産婦人科部長を歴任。現在は新古賀病院婦人科部長。福岡県太宰府市。

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 ●障害者排除が強まる懸念 倫理学者 波多江忠彦さんに聞く

 出生前診断で胎児に障害が見つかった場合、大半の人は中絶を選ぶ。障害児をちゃんと育てることができるかという不安に襲われるし、障害者への福祉制度も不十分だからだ。「障害があると分かっていて、なぜ産んだのか」との批判を周囲から受けることも恐れる。

 出生前診断の従来型検査は妊婦のおなかに針を刺す方法で流産のリスクがあったり、精度が低かったりと万能ではなかった。新型検査は母体の採血だけで済み、妊娠早期に実施できるので、検査を受ける人が増え、障害のある胎児の中絶が定着しかねない。

 そして、その「障害児中絶の常態化」は、出生前診断を含む人工生殖技術の進歩と呼応してエスカレートし、より頭や体格が良くて容姿も優れた赤ちゃんを求めることが当たり前になりかねない。「パーフェクトベビー」の誕生を人工的に可能とする世の中になることも考えられる。

 そんな社会になっていくと優生施策が持ち上がり障害者排除の力が強まることも予測される。効率ばかりが優先され、無駄の効用やゆとりが軽視される社会になるかもしれない。

 「健康な子が欲しい」という感情はどの人も抱くと思うが、だからといって出生前診断を肯定していいのか。私たちは誰もが病気や事故、老いで障害者になる可能性がある。自分が障害者になったとき、排除される社会でいいのか。そんな結果になることも想定しながら、出生前診断について、私たち一人一人がしっかり考えることが大事だ。

 =おわり

 ▼はたえ・ただひこ 1943年生まれ。東北大文学部卒。日本薬科大教授などを経て現在は山口大非常勤講師。共著『いのちを学ぶ』など。3月に福岡市であったシンポジウム「新型出生前診断の導入を考える」でコーディネーターを務めた。福岡市城南区。


=2013/04/20付 西日本新聞朝刊=

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