米韓FTA発効1年の韓国<中>57の法変更、米は国内法優位 「不平等条約」指摘も

 自由度の高い米韓自由貿易協定(FTA)が発効されてから1年。長年の交渉では、農産物の自由化に対する韓国農民の反対運動が前面に出た感があった。今年3月に現地を訪れると、その影響は国民全体の暮らしや国の形を変えるところにまで及んでいた。

 「米韓FTAは現代の不平等条約です」。韓国農漁村社会研究所で副理事長を務める権寧勤(クォンニョングン)さんは、両国におけるFTAの位置付けの違いを問題視する。

 韓国の場合、国際協定である米韓FTAは国内法の上位にある。このため、発効に当たって57の国内法を変更した。だが、米国は違う。上下院の合意で憲法上の条約と認めず「米韓FTA履行法」を別途に設定。その中で「米国の法律と合致しないFTAのあらゆる条項または適用は無効」と規定しているのである。

 権さんは「韓国だけが一方的に立法権や司法権、公共政策決定権を侵害される主権侵害の協定」と憤る。

 ■政府に賠償請求

 その具体例として、通商法に詳しい弁護士の宋基昊(ソンギホ)さんは、薬価決定に関わる問題を挙げた。

 米韓FTAでは、韓国の国民健康保険で使われる薬価を決定した公団に対し、例えば米国の製薬会社が不満がある場合に申し立てができる「独立審査機構」の設置が規定された。

 以前は、決定に異議があれば、製薬会社は公団へ異議申請を行い、再検討する制度があった。つまり、最終的な決定権は韓国側が握っていたが、米国は「独立審査機構の再審決定には拘束力がなければならない」と主張。その権限について米韓両政府で見解が分かれているという。

 「もし、米国の言い分を通せば、薬の種類や価格の決定に関し、韓国は最終的な決定権を失う」と宋弁護士は危惧する。一方、米国企業が決定により薬の市場が縮小したと見なせば、国の規制変更で不利益を被った海外企業が国際仲裁機関「国際投資紛争解決センター」に提訴し、解決する「ISDS条項」で韓国政府を訴えることもありうる。

 ■12の“毒素条項”

 そもそもISDS条項は、主に法制度が不備な途上国に進出した企業が、制度変更によって損害を受けることを防ぐために設けられたとされる。それが韓国で現実のものとなった。

 昨年9月、韓国政府による株式譲渡承認の遅れにより損害を受けたとして、米投資ファンド「ローンスター」が、韓国政府に約2兆ウォン(約1800億円)の賠償を求めて提訴したのだ。

 このほか、一度開放された水準はどんな場合も戻せない「ラチェット条項」、他国との協商で米国相手より条件を緩くして開放を約束すると自動的に米韓FTAにも適用する「未来の最恵国待遇条項」など、米韓FTAに反対する人々が“毒素条項”と呼んで問題視した項目は12種類に及ぶ。

 法律には解釈の違いが付きもので、反対派の指摘に対しても、韓国内には「騒ぎすぎ」という声もある。ただ、明らかなのは韓国がこうした“毒素”を飲まされても、米国が飲むことはないものが含まれるということだ。

 ■失われた“果実”

 では、韓国側が得た“果実”はどうか。韓国政府は当初、米韓FTAにより、今後15年間で対米輸出が年平均12億8500万ドル(約1270億円)増加するとの見込みを発表した。だが、信州大学農学部の加藤光一教授は「交渉過程で、輸出型韓国経済のメリットはだんだんなくなる方向に向かった」と分析する。

 その象徴が、2011年2月に米国の自動車産業の利益を反映した追加再交渉合意文書への署名だ。韓国側は、韓国車が円高の影響で売れると考えたが、3千CC以上の高級車でなければメリットがないと分かり「結果的には、アメリカ優位の交渉が進められた」という。

 翻って日本。今月12日、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加における米国との事前協議で合意した。その文書によると、米国が日本から輸入する乗用車に2・5%、トラックに25%をかけている関税を当面維持。撤廃時期は最大限遅らせることを容認した。米韓FTAの撤廃時期よりさらに遅らせる内容で、日本企業には条件が不利となった。

 韓国の今に、日本の未来が重なって映るような気がしてならない。


=2013/04/24付 西日本新聞朝刊=

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