米韓FTA発効1年の韓国<下>国民が理解できぬまま 情報の分析と共有こそ

TPPの理解度を調査したアンケート。まずは中身を知ることが大切だ 拡大

TPPの理解度を調査したアンケート。まずは中身を知ることが大切だ

 昨年3月に米韓自由貿易協定(FTA)を発効した韓国の後を追うように、日本が今年7月の交渉参加、そして年内の妥結へ向けて歩を進める環太平洋連携協定(TPP)。そこには光もあれば陰もある。いち早く自由化を進めた韓国から、私たちは何を学ぶべきなのだろうか。

 ■「初めて聞いた」

 米韓FTAの発効から1年。「ISDS条項について、その意味を説明できるという人は、韓国民にどれくらいの割合でいるか」。3月下旬に訪問した韓国では、取材した人々にこんな質問をした。

 国の規制などによって損害を受けたとする投資家が国家を直接訴えることができるISDS条項。昨年9月には、米投資ファンド「ローンスター」が韓国政府に約2兆ウォン(約1800億円)の賠償を求めて提訴した。このことが国の主権を脅かす一例として、韓国内で大きな話題になったと聞いたからだ。

 テレビで何度も放映したから小学生でも知っているという宋基昊(ソンギホ)弁護士(「民主化のための弁護士会」外交通商委員会委員長)は「40%」と答えた。一方、米韓FTAを批判する組織の幹部は「10%」、地方の農協組合長は「組合員で20%」、反対デモにも参加したことがある有機農家は「1%」と軒並み低かった。

 農産物の価格低迷で「大統領府に豚を放ち、抗議したい」と怒りをあらわにした農民グループの反応には驚いた。リーダーを除く5人中4人が「初めて聞いた」と答えたのだ。

 極めてアバウトな問いではある。だが、米韓FTAの国会批准をめぐり、国論が二分したとされる韓国ですら「こんなものか」と思うと同時に、日本の状況に思いをはせた。

 ■本当に正しいか

 1~3月にかけ、東京と大分でTPPに関する意識調査を行った。約160人を対象にしたアンケートでは、TPPへの賛否と、その内容について(1)知らない(2)聞いたことはある(3)中身を説明できる-を質問。その上で(1)ISDS条項(2)非関税障壁(3)WTO(世界貿易機関)(4)内国民待遇-など、TPPに関わる基本的な七つの用語について、(1)知らない(2)聞いたことはある(3)意味を説明できる-で、その知識の程度を聞いた。TPPに対する理解度を無視した上で、単に賛否だけを問う世論調査に疑問を感じたからである。

 結果は予想通り。TPPの「中身を説明できる」とした人でも、それに関わる用語について「意味を説明できる」とした回答は10%に満たなかった。

 農産物の関税問題だけが前面に出た感があるが、TPPでは食や医療、環境、労働、金融、投資など21分野にわたる協議がなされる。暮らしに関わるさまざまな分野に影響を与えるのは必至だ。ただそれは、見ようとする人にしか見えない。だからこそ、似た道を歩む韓国の今に学ぶべきことが多いと思える。

 宋弁護士は言う。「韓国の体験からすれば、政府が今後公表するのは、成長見込みのような政府にとって有利な情報だけ。それが本当に正しいのか、問題点はないのか…。さまざまな分野を専門的に分析する人たちが連携し、その情報をより多くの国民と共有することが大切です」

 さまざまな立場からの主張に耳を傾けながら、国民一人一人が判断していく。より良き未来はそこからしか生まれないだろう。

 TPPの側面を知る三つの催しを紹介し、米韓FTAリポートの終わりとしたい。

 ◇「上」は4月17日、「中」は同24日に掲載しました。

=2013/05/01付 西日本新聞朝刊=

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