キュウリ薄切りできますか? 包丁技術 低下くっきり 短大1年生対象 28年間比較、数値化

 外食をはじめ、出来合いの弁当や総菜を買って食べる中食などの浸透によって、家庭で調理する機会が減った現代。若者たちの包丁技術が低下していることが、西南女学院大学短期大学部の元教授、池田博子さんの28年にわたるキュウリの薄切り実技テストで明らかになった。

 ■97年以降に急落

 「実習で、赤だしみそとあんこを区別できずに使った」「シイタケをもどすよう指示したら『どこに戻すんですか』と学生に聞かれた」-。調理実習に携わる教員たちが集まると、決まってこうした会話が交わされるという。

 「皆が指摘する調理技術の低下を、数値化できないか-それが研究のきっかけでした」。今年3月まで44年間、生活創造学科(2002年以前は家政科)で学生の指導にあたってきた池田さんは振り返る。

 包丁でキュウリをいかに薄く、速く切れるかを計るこのテスト。1984~2011年、必修科目の「調理実習」を受講した1年次の学生を対象に、前期授業の終了時点に実施した。

 計算式=図1=を作って年度ごとに比較すると、多少のばらつきはあるものの、1992年以前の平均点はおおむね50~60点台だったが、97年以降は20~30点台に急落。2008、09年に至っては20点台で、調査開始当初の最低点に近かった=図2。

 ■学習内容を反映

 1992年以前と、97年以降に見られる格差の原因は何だろうか。

 「小学生も大学生も、調理技術においてはほとんど差がない」という研究者の報告があるように、包丁技術は実践してこそ上達する。調理体験の減少などさまざまな要因が考えられるが、池田さんは「家庭科の授業時間数の減少や教育内容の変化も一因でないか」と分析する。

 この20年の学習指導要領を見ると、小中高で家庭科の授業は減少。男女共学化による履修内容の変更も加わった。「調理実習に割く時間を確保することすら難しい」。それが現場の教師の実感だ。

 「『今どきの主婦は』と非難されがちな事象も、実はそのときどきで教えられた学校教育そのもの」。そう指摘するのは、広告会社「アサツー ディ・ケイ」で200Xファミリーデザイン室長を務める岩村暢子さん。

 岩村さんは98年から、首都圏に住む60年以降に生まれた子のいる主婦を対象に、実際の食事を写真に撮り、その理由をインタビューする食卓調査を実施。買ってきたものが皿に移されることなくそのまま食卓に並ぶなど、手作りより手間をかけないことに重きが置かれる一方で、賞味期限のような「食の安全」には過敏ともいえるほど反応する-そんな現代家族の食への意識と家族観の変化を、食卓の変遷から読み解いた。

 こうした価値観の変化はどこから来たのか。戦後50年の中学校の家庭科の教科書を調べた岩村さんは、教科書の内容の変遷と、それを習った世代が親になった時の食卓が符合することに気付いたという。

 「学校で習ったことは、人々が思っている以上に、大きな影響を与えている」と岩村さんは解説する。

 ■「その前」が大事

 生きる力に直結する調理技術の喪失は、社会としての力を失うことにもつながりかねない。体験がなければ、知恵も働かないと考えた池田さんは2006年から、授業の一環で「弁当の日」を始めた。2週間に1度、学生に自作の弁当を持参させ指導。さらに最終作品を大学祭で公開して向上心をかきたてたところ、上達する学生が増えた。

 それでも池田さんにはじくじたる思いがある。本来こうした技術は、大学に入る時点で身に付けておくべきものだからだ。どんなに池田さんたちが頑張っても「その前」が変わらなければ、毎年、同じことの繰り返しになってしまう。

 「におう、触る、味をみる、作る…。体験なしには知恵も出ない。国が05年に食育基本法を制定してから8年。家庭の力が落ちている今だからこそ、学校の家庭科教育を見直すべきではないでしょうか」。長年、学生を見続けてきた池田さんの実感である。

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 〈実技テストの方法〉長さ10センチのキュウリを15秒間でできるだけ薄く速く切る。切った枚数が同じ場合、切った長さが短いほど得点は高くなる。切った枚数の乗数を、切った長さ(センチ)の3倍で割ったのが得点。切ったキュウリは、緑色の部分が円周の4分の3以上残っていれば1枚とみなす。20枚で6センチ切った場合、得点は22・2点となる。

=2013/05/08付 西日本新聞朝刊=

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