救急救命士の処置 最善? 厚労省分析 問題提起の論文受け

 全国の消防の救急隊が搬送した心肺停止患者に関するデータを、消防庁が国際的な指針に基づいて2005年分から研究者に開示するようになった。これを機に、そのデータを活用した研究論文が相次いで登場しているが、救急救命士の現在の処置方法に懐疑的な論文もあることから、厚生労働省は見直しが必要かを探るため、分析に取り組んでいる。

 消防庁はウツタイン様式と呼ばれる国際的な指針に基づき、毎年全国で10万~13万人程度となる救急搬送された全ての心肺停止患者について、心停止の推定原因や救急救命処置の内容、1カ月後の状況などに関するデータを05年分から、研究者の求めに応じて提供するようになった。

 厚労省によると、このデータを活用した研究論文は10年3月から13年1月にかけて、米国など英文医学雑誌に23本発表されていた。

 うち九州大学大学院の萩原明人教授(社会疫学・医療サービス評価)などのグループは「アドレナリン(強心剤)の使用と患者の予後(治療後の経過)」に関する論文を12年3月、世界的に権威のある米国の医学雑誌「ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JAMA)」に発表。心肺停止患者の蘇生法として救急搬送時に投与されるアドレナリンは短期的には効果があるが、長期的(1カ月後)には生存率や病状に悪影響を及ぼすとの内容で、救急救命士が広く行っているアドレナリン投与に疑問を投げかけるものだった。

 また、救急搬送時に器具を用いた気道確保を実施した患者群は、バック・バルブ・マスクのみの換気を行った患者群と比べ、脳機能良好例の割合が低かったという研究論文を、米国在住の救急医である長谷川耕平医師らのグループが今年1月、やはり「JAMA」に発表。これも救急救命士が広く行う気管内チューブなどを使った気道確保を問題視するものだった。

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 こうした論文について、帝京大学医学部の坂本哲也教授(救急医学)や救急救命九州研修所(北九州市八幡西区)の畑中哲生教授らによる厚労省研究班が、どう解釈したらいいのか、12年度から検討に着手。

 「救急救命士がアドレナリン投与など高度な処置を行うのは、患者の状態がより重症である場合が多い。従ってこれらの研究結果をもって、高度な処置のために予後が悪くなったと解釈すべきでない。ただしアドレナリン投与は、そもそも効果が十分に証明されていないこともあり、現状を再検討する余地があるかもしれない」(畑中教授)などの指摘が出ている。

 これに対し萩原教授は自身の研究論文について「アドレナリンを投与された患者群と、非投与の患者群に分けて比較した上での結果。統計学の手法を用い、双方の違いはアドレナリン投与の有無だけに近い状態にして比較している」と話す。

 研究班は、解釈についての報告書を5月末にもまとめる予定。厚労省はそれを踏まえて、救急救命士の在り方をどうするか判断していく。

=2013/05/10付 西日本新聞朝刊=

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