要介護者 ニコニコペース運動 機能回復 福岡の施設 踏み台昇降や足踏み

ニコニコペース運動で身体の機能回復を目指すお年寄り=福岡市博多区の「ときどき」 拡大

ニコニコペース運動で身体の機能回復を目指すお年寄り=福岡市博多区の「ときどき」

 歩く程度のスピードでゆっくり走る「ニコニコペース運動」。約30年前に福岡大学の教授が提唱し、心臓病や高脂血症など生活習慣病の予防に効果があることで広く知られている。この運動を介護現場で活用しようという試みが始まっている。体の機能回復で生活の質を高めながら、より良い老後を送りたい-そんな願いを、健康づくりのために生まれた運動がかなえられるか、注目される。

 「イチ、ニー、サン、シー…」。介護職員の掛け声と4拍子のゆっくりとしたピアノの音色。輪になったお年寄り7人が、高さ15センチほどの踏み台を昇り降りしたり、座ったまま足踏みしたり。皆さん、ニコニコ笑顔を浮かべている。

 福岡市博多区のデイサービス「Toquidoki ときどき」。2年前の開所以来、ニコニコペース運動を介護プログラムに導入してきた。通所する72人のうち35人が汗を流す。

 昨年7月から週2日欠かさず足を運ぶ要介護1の本郷幸男さん(80)は「きつさがちょうど良か。何か体が軽くなった気がする」と満足顔。通い始めたころは鉛筆を握れないほど右手がしびれていたが、9カ月たった今は洋数字が0から10まで書けるようになった。

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 ニコニコペース運動の提唱者は、福岡大学スポーツ科学部の田中宏暁教授(運動生理学)。運動強度は最大酸素摂取量の50%ほどで、筋肉が疲れた時に出る乳酸がたまり始めるぎりぎりのスピードでゆっくり走る。20代は時速7キロ、50代5キロ、70代4キロが目安だ。

 このペースで20~30分間走ると、ウオーキングの約2倍のエネルギーを消費する。内臓脂肪を燃やす効果が高く、糖尿病など生活習慣病の予防が期待できるという。さらに前頭葉が刺激され、認知機能が高まることも指摘されている。

 これまで主に健康づくりで効果を挙げてきたニコニコペース運動を、室内の介護施設用にアレンジしたのが、ニコニコペースの踏み台昇降なのだ。

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 介護現場での需要なポイントは、お年寄りが自転車型トレーニング器具をこぎながら「心音」を測定する過程を踏むこと。介護認定されたお年寄りが安全で効果的にリハビリを行える運動強度を知るには、欠かすことができない。

 ただ、この測定には大学病院や心臓病の専門病院が利用する高度な医療機器を使う。1回の測定で数万円かかることもあり、介護施設からすれば手間とコストが掛かるのが難点だった。

 そこで田中教授と医療機器メーカーが開発した心音測定器を介護施設にレンタル。3千円程度に抑えた費用を施設側が負担することで、お年寄りは無料で利用できるようにした。

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 試みの成果は着実に上がってきている。

 要支援2の60代男性は週2回のペースで通所。10分間の踏み台昇降を含め、1回当たり20~25分間の有酸素運動を3カ月続けた。当初は両目を開けた状態での片足立ちが2・5秒しかできなかったが、3カ月で35秒もバランスを保てるようになった。同じく要支援2の80代女性は、通所から3カ月で最大酸素摂取量が2倍近く増えたという。

 ニコニコペース運動が介護を必要とするお年寄りの機能回復にも役立つことが分かってきたところで、次の段階。今のところ、この運動を導入する介護施設は「ときどき」を含めて福岡市内の2カ所しかない。普及の鍵を握るのが、介護度の重い人の運動強度をいかに測定するか。現状では、自転車型トレーニング器具をこぐだけの運動能力がなければ心音を測定できず、ニコニコペース運動に取り組めない。

 「座ったまま足踏みするだけで心音を測定できるようになれば、重介護度の人も安全で効果的なリハビリができる。心音を測定する際の新しい運動方法を研究したい」。ニコニコペース運動と共に元気になっていくお年寄りの笑顔が咲く-田中教授はそんな介護の風景を思い描いている。

=2013/05/17付 西日本新聞朝刊=

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