【おなかの命は… 不育症】<1>低い認知度 治療の壁に

次女のエコー写真を見ながら「命の誕生は奇跡なんだよ」と娘たちに話す土井百紀子さん。大きくなったら流産の経験も伝えるつもりだ 拡大

次女のエコー写真を見ながら「命の誕生は奇跡なんだよ」と娘たちに話す土井百紀子さん。大きくなったら流産の経験も伝えるつもりだ

 ■こんにちは!あかちゃん 第5部■

 ベッドの上で麻酔から目覚めた。流産の処置が終わっていた。数時間前までおなかにいた赤ちゃんはもういない。「育ててあげられなくてごめんね」。涙があふれてきた。

 福岡市の中学教諭、土井百紀子さん(45)は2010年春、3度目の流産を経験した。妊娠8週目の診察で担当医に「育っていない。心拍が確認できない」と告げられる。原因を尋ねると「分からない。知らない」と投げやりに返された。

 長女(6)は無事に生まれたのに、その後、流産が続いた。1度目と2度目は悲しくて悲しくて、泣くことしかできなかった。3度目は、深い喪失感とともに「何か原因があるはず」と疑問がわき上がった。情報を得たい一心で、インターネットの検索画面に「流産 3回」と入力した。たどり着いたのは「不育症」。初めて聞く言葉だった。

 《妊娠はするものの、流産や死産を繰り返す状態を不育症という。専門医でつくる厚生労働省研究班は2011年に「2回以上の流産、死産、あるいは早期新生児死亡の既往がある場合」と定義づけた。

 研究班の調査によると、妊娠したことがある女性の38%が流産を経験。2回以上は4・2%で、毎年約3万人の患者が発症していると推計される。原因は、夫婦いずれかの染色体異常▽子宮の形の異常▽血栓ができやすい体質で胎児に栄養が届きにくい-などが考えられる》

 この1年で3回も…。繰り返す流産に心を痛めていた岡山県倉敷市の夏美さん(25)=仮名=は昨年末、地元の医師に紹介され、岡山大学病院を訪ねた。ここには不育症専門外来がある。

 検査の結果、血栓ができやすい抗リン脂質抗体症候群と分かった。そして手渡されたパンフレットには、こう書かれていた。

 検査、治療を受けた人の8割以上が無事出産できています-。

 救われた気がした。「流産は仕事で無理したせいだろうかと自分を責め、一生赤ちゃんを抱くことができないかもしれないと落ち込んでいたから」。担当医となった中塚幹也さんは「不育症を知らない産婦人科医もいる。情報を得られずに流死産を繰り返したり、妊娠を諦めてしまったりする人をなくしたい」と話す。

 治療として、血栓予防のアスピリンを飲み始めた。4月中旬には4度目の妊娠が分かった。その後は血が固まらないようにするヘパリンを1日2回、太ももに自己注射している。注射跡だらけで、しばらくスカートははけそうにない。それでも「この子に会えるなら何てことない」と思う。

 「妊娠したら必ず生まれてくると思っていた。命って本当に奇跡なんですね」

 《夏美さんのように、不育症の原因が見つかるのは3人に1人。流産の8割が胎児の偶発的な染色体異常によるもので、母体に異常がなくても偶然繰り返すことがあるからだ。研究班の調査では、原因不明の患者の72・3%が次の妊娠で出産した。

 ただ、妊婦の年齢が高くなるほど、卵子の老化で染色体異常による流産は起こりやすい。福岡中央総合健診センター産婦人科医師の山下英俊さんは「高齢の場合はできるだけ早く検査を受け、次の妊娠に向かうことも大切」と指摘する》

 土井さんの場合、何種類もの検査を受けたが、異常は見つからなかった。「原因が分からないと治療もできない」と途方に暮れた。一方で、医師から不育症の知識を得て、ネットでさまざまな人の体験談を読み、「苦しいのは自分だけじゃない」と前向きになれた。

 その年の夏、妊娠が分かった。「また駄目かも」と不安が常にあった。家族だけに告げ、周囲に悟られないよう、体形の目立たない服を着た。おなかに「ママですよ」と優しく話し掛ける余裕はなかった。「頑張って、お願い」。毎日小さな命を励まし続けた。

 無事、次女(2)を出産した。ようやく緊張と不安から解放された。「生まれてきてくれてありがとう」。2500グラムで誕生した次女に最初に伝えた言葉だ。

 土井さんは「不育症の知識を持ち、きちんと説明できる産婦人科医が増えてほしい」と強く望む。

 認知度が低く、専門医も少ない不育症。不妊治療のような国の助成制度はなく、高額な検査、治療費など患者への負担は大きい。流産を周囲に明かせず、つらい思いをしている人も少なくない。当事者の思いや支援のあり方を考える。


=2013/05/28付 西日本新聞朝刊=

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