【おなかの命は… 不育症】<2>着床前診断に望み託し

子どもが大好きな真実さん。胎動を感じるたびに「もうすぐ自分の子を抱けるんだ」と喜びをかみしめる 拡大

子どもが大好きな真実さん。胎動を感じるたびに「もうすぐ自分の子を抱けるんだ」と喜びをかみしめる

 ■こんにちは!あかちゃん 第5部■ 
 《不育症の原因の一つに「転座(てんざ)」がある。染色体の一部が入れ替わった状態で、受精の際に異常を来し、流産につながることもある。夫婦の健康自体に問題はない。転座をはじめ、夫婦いずれかの染色体異常が原因の不育症は5%ほどとされる》

 「転座」と告げられ、詩織さん(37)=仮名=は医師の説明が耳に入らなくなった。3回の流産を経験し、夫(44)と一緒に原因検査を受けた後の診察室。夫の染色体に異常はなく、自分にだけ因子があった。

 私のせいで夫は父親になれないの? 検査にどんな項目があるのか何の知識もなく、何の覚悟もしていなかった。その分、受けたショックは大きかった。

 32歳で結婚。翌年には妊娠が分かり、夫と喜びを分かち合った。直後、8週目で心拍が確認できなくなった。「天国から一気に地獄に突き落とされたようでした」。同様の経験をあと2回、味わった。

 「流産を防ぐ着床前診断があります」。うなだれる夫婦に医師が説明を続けた。諦めなくていいんだ。年齢的にタイムリミットは近い。後悔したくない。「やります」。即答だった。

 《シャーレ上で卵子に精子をかけて受精を助ける体外受精。その時点で染色体や遺伝子の異常を調べるのが「着床前診断」だ。流産する可能性の小さい受精卵を選んで子宮に戻し、出産につなげる。体外受精の妊娠率は約30%、着床前診断を経た後の流産率は15%前後とされる》

 自身の転座で7回続けて流産した典子さん(36)=仮名=も着床前診断に踏み切った。だが、体外受精を3回試みたものの、結果は得られない。卵子を数多く得るには注射や服薬が欠かせない。経済的にも精神的にも負担がのしかかり、夫(39)に「私と離婚すればお父さんになれるのに」と口走ったこともある。

 さらに最近は採取できる卵子の数が減り、焦りは募るばかり。それでもわが子を抱きたくて、希望を捨てずに通院を続けている。それに自然妊娠は怖くてもうできない。体外受精で受精卵が子宮に着床しなかった時も落ち込むが、流産の喪失感は比較にならない。

 着床前診断に取り組むセントマザー産婦人科医院(北九州市)の田中温院長は「流産の精神的なダメージは計り知れず、子宮への負担も大きい。転座の夫婦にとって着床前診断は救いとなります」と話す。

 「子どもがいない人生もいいじゃない」と言う夫にうなずきたくなるときもある。「これだけの苦しみに耐えてきた。それはきっとわが子に会うため」。希望はまだ捨てていない。

 《「生まれた子に転座が遺伝していたら…」。着床前診断の前には、結果の受け止め方や意義を考えるため、専門家による遺伝カウンセリングを受ける必要がある。転座は必ず遺伝するわけではない。ただ、離婚など家族関係がこじれたりするケースがあるからだ》

 流産を3回経験した真実さん(36)=仮名=も着床前診断を受けるかどうか、悩んだ。多額の費用もさることながら、何より遺伝のことが気掛かりだった。

 主治医で竹内レディースクリニック(鹿児島県姶良市)の竹内一浩院長は「どちらに転座があるか、知るかどうかは夫婦の意志を尊重する」との方針。そこで夫(35)と話し合い、転座は二人だけの心にとどめ、診断を受けることにした。

 決断を後押ししたのは、転座が分かった後でも、自分たちは互いを産み育ててくれた親に感謝しているという気持ちだった。子どもに遺伝したとしても健康に問題はない。今後、医療もさらに進歩するだろう。

 現在、妊娠6カ月。胎動を感じるたびに「ああ、生きているんだ」と喜びをかみしめている。

 最初に登場した詩織さんも体外受精を経て2011年秋、出産した。「夫を父親にしてあげられてうれしい」。自分も母親になり、転座のある自分を受け入れられるようになっていた。

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 ●メモ=着床前診断

 日本産科婦人科学会が重い遺伝病に限って認めていたが、2006年に転座に起因する習慣流産にも拡大した。実施には症例ごとに学会の承認が必要。ただ、拘束力や罰則はなく法律による規制はない。

 習慣流産の着床前診断は13年3月9日までに231件申請され、206件を承認。転座のある夫婦が一生のうちに出産する確率は、着床前診断を受けても、自然妊娠でも変わらないとする報告もある。

 流産しにくい受精卵を選ぶ着床前診断には、優生思想や命の選別だとする批判もある。一方で自然妊娠は流産の回数が多くなる傾向にあり、精神的なダメージが深刻となるほか、子宮内膜が薄くなるなど母体への負担が大きいとの指摘がある。


=2013/05/29付 西日本新聞朝刊=

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