【おなかの命は… 不育症】<3>癒えぬ傷 体験者が支え

全国から不育症の相談が寄せられる岡山大学病院の「不妊・不育とこころの相談室」。関連する書籍やDVDの貸し出しも行っている 拡大

全国から不育症の相談が寄せられる岡山大学病院の「不妊・不育とこころの相談室」。関連する書籍やDVDの貸し出しも行っている

 ■こんにちは!あかちゃん 第5部■
 
 《5回の流産と3回の死産。10年以上、不育症と向き合ってきました。生まれてこなかった魂はどこへ行くの? こんなに努力したのに報われないの?
 考えない日はありません。私って欠陥品なのかな…》

 福岡県内で暮らす裕子さん(44)=仮名=は、血栓ができやすいために流産を繰り返すと診断された。治療薬を飲み、自己注射もした。そのかいあって2003年に長男(10)を出産。その後もきょうだいをつくってあげたい一心で治療を続けた。

 06年冬のこと。7カ月まで順調だった。ところが、診察を受けているうちに、医師の顔がどんどん険しくなっていく。聞かなくても結果は分かった。

 陣痛を起こし、亡くなった胎児をおなかから出さないといけない。「ママと一緒に頑張ろうね」。4時間半かかった。850グラムの男の子。家族で火葬した。残ったお骨はわずかだった。

 夫(46)ともども心身のバランスを崩し、心療内科に通った。人の妊娠を喜べない。赤ちゃんを見ると苦痛を感じる。周囲から気遣われても笑顔をつくる気力すらなかった。夫は「妻を支えなきゃ」との意識が強く、家でも泣けなかった。

 《毎晩のように夜中に目を覚まして泣き叫びました。赤ちゃんのことが頭から離れなくて。羊を数えて朝を待ちました。そんな時、あるホームページ(HP)に出合ったんです。そこには、私と同じ感情がつづられていました。悲しみ、ねたみ、いら立ち…》

 NPO法人不育症友の会「ハートビートくらぶ」。このHPを運営する当事者団体で02年に設立された。東京を中心に講演会や患者ミーティングを開き、遠方からの参加もあるという。HPには不育症に関する知識をまとめ、多くの体験談も会員用の掲示板に掲載している。

 「流産としっかり向き合い、心を整理する場が必要なんです」。そう話すのは理事を務める久松美香さん(52)。自身も30代で2度流産した経験があり、言葉に実感がこもる。

 久松さんは流産後、なかなか妊娠せず不妊治療を受けた。体外受精を試みたが妊娠に結びつかない。その度に「妊娠しなければ流産もしない」とほっとしている自分に気付いた。流産の傷は自覚以上に深かった。

 「ハートビートくらぶ」には同様の悩みを抱える人が集う。そこで久松さんたちは心のケアを解説した冊子を作製し、胎児の心音を自宅で聞ける「胎児ドップラー」の貸し出しにも取り組んでいる。不育症の女性は妊娠中、常に流産の恐怖を抱える。次の健診までの不安を少しでも軽くできたら、との思いからだ。

 《東京であった当事者同士の集まりにも駆けつけました。思いを吐き出して気持ちが軽くなった気がします。私だけじゃないんだって…》

 岡山大学病院にある「不妊・不育とこころの相談室」。岡山県の事業として04年に開設された。相談は県内に限らず、全国から寄せられる。特に最近は不育症の相談が増え、年間約千件の半数以上を占めている。

 不育症外来もある。患者を調べると、8%に不安障害、6・2%にうつ病の傾向が見られた。妊娠が分かった際のうれしさは、流産や死産の回数が増えるほど低くなっていたという。

 そこで岡山大学病院は患者会「ママとたまごの会」を結成。定期的に交流会を開き、悩みを共有する場を設けた。また、亡くなった胎児を抱いて家族で過ごす時間を持ったり、赤ちゃんに合う服を一緒に作ったりする活動に取り組んでいる。

 臨床心理士の木村明子さんは「悲しみやつらさを無理に押さえ込んだり、流産の事実をなかったことのように振る舞ったりすると、回復が遅れるんです。周りは当事者の思いを受け止めて、一緒にサポートしていく姿勢が大切」と話す。

 《2年前の流産を最後に治療から距離を置きました。おなかの中で亡くなった赤ちゃんの遺骨は、今も寝室にあります。納骨しようと思ったこともありました。でもまだ、踏ん切りがつかない。私が流産したこと、おなかの中で亡くなった命…。何か意味があるはず。前を向いて、その答えを探そうと思います》

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 ●メモ=カウンセリングと出産率

 厚生労働省研究班の報告では、カウンセリングを受けた人の出産成功率は71・6%で、受けなかった人より約30ポイント高いというデータ(2008~10年)もある。

 また、検査で原因を明らかにしたり、医師が治療方針を丁寧に説明したりすることで、不安やストレスの軽減につながり流産率を下げるという。

 ただ、不育症の相談窓口は少ない。初期の流産は家族や周囲から子の死と認識されないこともある。

 ◇不育症友の会「ハートビートくらぶ」ホームページhttp://www.heartbeatclub.jp/

 ◇不妊・不育とこころの相談室=086(235)6542。電話、来所での相談は無料で、毎週月、水、金の午後1時~5時、毎月第1土、日曜の午前10時~午後1時。

=2013/05/30付 西日本新聞朝刊=

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