【人の縁の物語】<19>泣きましょう「涙活」で 福岡市でイベント ストレス解消、一体感も

涙を流す参加者たち。「泣きのツボ」はそれぞれ異なるのでさまざまな映像が流された 拡大

涙を流す参加者たち。「泣きのツボ」はそれぞれ異なるのでさまざまな映像が流された

 最近、泣いたことはありますか。「泣くこと」を目的としたちょっと変わったイベントが5月、福岡市で開かれた。その名も「涙活(るいかつ)」。何のために? 泣こうとして泣けるもの? 疑問を抱きながらお邪魔した。

 金曜の夜。ビルの一室に20~40代の男女約10人が集まってきた。照明が落とされ、かんきつ系の香りがリラックスした雰囲気を演出する。

 「心の琴線に触れたら遠慮なく泣いてくださいね」。主催者のあいさつに続き、家族をテーマにした国内外の短編映像が上映された。母親への感謝の手紙、戦争から戻った家族との再会…。

 10分後、ハンカチで目頭を押さえる人がいた。30分後にはおえつが漏れる。1時間たつと、すすり泣きとはなをかむ音があちこちから聞こえた。

 参加者に話を聞いた。

 泣いたのは小学生で試合に負けて以来という高田龍一さん(23)=福岡県筑紫野市。「男は泣くなという価値観に縛られていた。泣いていいと言われて気持ちが軽くなりました」

 会社員の女性(44)=同県大野城市。「仕事も家事も大忙しで、自分の感情とゆっくり向き合う暇がなくて。映像に気持ちを重ねて自然に涙があふれてきました」

 泣いた後、誰もがすがすがしい表情だった。

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 企画したのは、さまざまなイベントを手掛ける薄田泰代さん(28)=同県春日市。既に東京で行われていることを知り、ふと思った。自分も最近泣いていない、と。「大人になると我慢して感情を押し殺す。泣く場所をつくることですっきりしてほしい」と狙いを語る。

 東京で涙活を始めた寺井広樹さん(32)=千葉県浦安市=にも話を聞いた。きっかけは離婚する男性の涙にあった。

 別れる夫婦がけじめをつける「離婚式」のプランナー。約190組を手掛けてきて、式の最中に泣くのは圧倒的に元夫が多いことに気付いた。「女性と違って、離婚に至る過程で泣く機会がなかったのでしょう」。でも泣いた後は、すっきりして前向きな言葉が出る。「涙には感情を浄化するすごい力がある」とひらめき、涙活を始めた。

 医学的にも体にいい影響があるという。東邦大学名誉教授(脳生理学)の有田秀穂さんは「感情が高ぶって泣くことで緊張やストレスに関係する交感神経から、脳がリラックスした状態の副交感神経にスイッチが切り替わる。ストレス解消に効果があると考えられます」と解説する。

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 東京では今年1月から10回ほど開かれている。毎回30~50人が集まり、20~80代と幅広い。「家でも会社でも泣く場所がない」という中間管理職の男性。「子どもの前では心配を掛けるから泣けない」という子育て中の主婦。皆、心の奥にうっぷんを抱えてやって来る。

 寺井さんは、誰かと一緒に泣いて感情を共有する一体感も涙活のメリットだとみる。共に泣いたら「涙友(るいとも)」と呼び、初対面でも不思議と本音で話せるそうだ。涙活での出会いをきっかけに、交流が深まることも多い。

 ネット社会とは対照的に、泣き顔を見せ合い、自分をさらけ出す涙活。薄田さんは「一緒に涙を流し、共感し合うと絆も生まれる。涙活はストレス解消だけでなく人間関係を豊かにする効果もあるのでは」と実感する。

=2013/06/04付 西日本新聞朝刊=

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