米国民から見たTPP 九州国際フォーラムから 政府、議会「聖域認識せず」 大企業主導 市民冷ややか

九州国際フォーラムで米国市民の目線から意見を述べるロリ・ワラックさん 拡大

九州国際フォーラムで米国市民の目線から意見を述べるロリ・ワラックさん

 米国が主導権を握る環太平洋連携協定(TPP)。米国側の政府や企業の強い姿勢は感じられるが、そこで暮らす国民の声はなかなか聞こえてこない。そんな中、5月末に福岡市で「TPPを考える国民会議」(代表世話人=宇沢弘文・東大名誉教授など)が九州国際フォーラムを開催。国内外から大学教授らが集った意見交換の場に、米国の消費者保護団体「パブリック・シチズン」で国際貿易を担当する弁護士ロリ・ワラックさんの姿があった。米国市民の目にTPPがどう映っているのか。その一端を、彼女の発言から紹介する。

 ■製造業500万人失業

 米国民としてTPPを考える上で、1994年に米国とカナダ、メキシコの間で発効された北米自由貿易協定(NAFTA)が参考になる。「生活がどんどん向上する」という旗の下、当時のクリントン大統領によって進められた。だが、給料の高い国から安い国に投資がなされることで、米国では製造業従事者の25%にあたる500万人が失業し、賃金も下がった。

 ブーメランチルドレンという言葉がある。4年間親元を離れて大学に行った子が、仕事がなくて再び帰ってくることをいう。これが今の米国の新卒事情だ。

 現在、安倍晋三首相がTPPによって投資が増え、給料が上がり、経済が成長すると語るように、クリントン大統領もNAFTA締結の際、国民に同じような約束をした。ある程度苦しくなることはあっても、いずれ改善するのだ、と。

 しかし、ダメージの方が大きかったNAFTAに、前向きな印象を抱く米国人は少ない。今回のTPPについても、多くの市民はそれに近い印象で受け止めている。

 ■日本が譲歩と認識

 2月にオバマ大統領と安倍首相が会談し、3月に日本の交渉参加が発表された。その両首脳共同声明のうち、国内向けに強調した点は全く異なっていた。

 安倍首相がもっぱら強調したのは「一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」という部分で、これを根拠に例外措置がありうるとする。

 一方、米政府の基本理解は「TPPは関税・非関税措置の撤廃を目的としており」「全ての品目が交渉対象になる」という部分であり、実際共同声明には「例外措置」や「聖域」という言葉は一切ない。米国議会は安倍首相の言う「聖域」要求を知らず、日本が全て譲歩すると認識しているとみるのが自然だ。

 5月24日まで、ペルーで開かれた17回目のTPP拡大交渉会合には、日本が参加する前に全条項を完全版にしておこうとの狙いがあったと聞く。18回目となるマレーシア会合では、日本は自分たちが参加しやすいように日程変更を要望したが、答えはNO。むしろ参加できないように極力仕向けられている状況だ。

 7月15~25日のマレーシア会合で、日本が交渉のテーブルに付けるのは23日午後か24日。それまで何が話し合われたか、TPPの性格上、公式文書の閲覧はできない。協定本文だけで900ページ(関連資料を含めると数千ページ)にも及ぶ内容をすぐに理解し、最後の2日間で交渉できるとはとても思えない。

 安倍首相が日本の独立性を保ち、素晴らしい国をつくりたいとするリーダーなら、内容をしっかり把握する余裕もなく、他国の決めた協定の話し合いが終わろうとする時期に、なぜ参加したいのだろうか。

 ■NAFTAの教訓

 TPPなどの通商問題にあたる大統領諮問機関の米国通商代表部(USTR)には、600人に及ぶ企業代表者らが交渉官に助言する。次期代表のフロマン大統領副補佐官は金融大手の元役員。農業関係には遺伝子組み換え作物企業、特許関係には製薬会社出身者といったように、交渉官は企業を背景に公的な役職に就く。民と官の立場で権力の中枢を行ったり来たりすることから、その仕組みは「回転ドア」とも呼ばれる。

 かようにTPPとは、基本的に米国の企業が考え、求める枠組みにほかならない。あくまで大企業の思惑であり、市民の願いではない。約20年、NAFTAモデルを経験してきたから、そう言える。

 以上述べたようなTPPの本質を一般国民にいかにして伝えるか。今後はそんな取り組みが大事になる。

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【ワードBOX】パブリック・シチズン

 1971年に弁護士で社会運動家のラルフ・ネーダー氏が設立した米国の消費者非営利団体。環境保全、消費者の権利保護などに取り組む。ワシントンとテキサス州オースティンに事務所があり、支援者8万人からの寄付や発行物の販売で運営され、政府や企業の補助金は受けていない。米外交政策は大企業への利益誘導型、帝国主義的な反民主主義、反人道的と指摘している。

=2013/06/12付 西日本新聞朝刊=

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