【こんにちは!あかちゃん 第6部】高度生殖医療は今<1>卵子提供を「希望の光」に

 ■NPO法人「OD―NET」(神戸市)代表 岸本佐智子さん
 
 鳴りやまない電話、途切れないメール。「こんなに反響があるなんて…」。正直、予想外だった。1月、OD-NETが国内初の卵子提供登録を呼びかけた翌日からの3日間で、提供を希望する問い合わせは100件を超えた。

 35歳未満の子どもがいる成人女性、夫の同意はあるか…。六つの条件をクリアした42人が残った。感染症などの有無を調べる血液検査、電話での意思確認を経て9人をドナー登録した。

 病気で卵子のない女性13人を患者(レシピエント)として既に登録しており、血液型や居住地などをマッチング。家族以外の匿名の第三者から卵子の提供を受ける体外受精は国内初となる。年内に3組が実施される見通しとなった。

 ドナーは卵子を採取するリスクを背負いながらも、無報酬だ。約20年前から卵子提供がビジネスとして確立する米国など海外とは一線を画す。「応募はゼロかもしれないと覚悟していました」。押し寄せる善意の波に感謝の念を募らせる。

 すべてはまな娘の病気が始まりだった。

 24年前。発育の遅かった次女が染色体の欠損で卵子のないターナー症候群と診断された。「将来、子どもを産むことはできないと思います」という診断に目の前が真っ暗になった。

 涙に明け暮れる日が続いた。しかし、泣いてばかりはいられないと悲しみを振り払う。ターナー症候群の患者団体を発足させ、交流会を開いて患者や家族が悩みを分かち合った。

 「子どもが欲しい。諦めきれない」「海外で卵子をもらうのは高額だし、精神的にきつい」…。会長として、これまで約700件の相談に耳を傾けてきた。

 「子どもを産めない女性の悩みと苦しみを知っている自分がやるしかない」。15年以上も聞き続けたターナー女性のつらい思いが背中を押した。

 遺伝的つながりのない卵子の体外受精に、世間の抵抗感は根強い。生後の親子関係はどうなるのかなど課題が山積する。見切り発車との批判も受けるが「動かなければ何も変わらない」とぶれない。強い信念があるからだ。

 ターナー症候群や早発閉経など卵子が原因の不妊夫婦にとって、提供卵子による体外受精は希望の光。「幸せの形は他人が決めるんじゃなく、自分が決めるもの。選ぶか選ばないかは自由だけど、選べるか選べないのかとでは全然違う」

 厚生労働省の部会は2003年、「匿名の第三者」「無償」という条件で国内での卵子提供を容認する報告書を出した。しかし、その後10年たっても法制化に向けた進展は何もない。

 「卵子提供の仲介は責任が重くて、民間では限界があるのに…」。血縁だけでなく、卵子提供による新しい家族の形が認められる社会であってほしい。その時が来るまで、走り続ける覚悟だ。

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 ▼きしもと・さちこ 1964年生まれ、大阪市出身。93年に大阪でターナー症候群の患者会「ひまわりの会」を設立し、現在は相談役。2012年に「OD―NET」を設立した。

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 ■OD─NETの卵子提供仲介

 卵子を提供するドナーは35歳未満の子がいる成人女性という条件のほか、生まれてくる子が15歳になって希望すれば、自分の名前や住所が伝えられることに同意しなければならない。提供を受けるレシピエントは、病気で卵子がない40歳未満の既婚女性に限定。高齢を理由にした希望は受け付けない。卵子の提供は無償で、卵子の採取にかかる費用や交通費はレシピエント側が負担する。

 体外受精は、提携するセントマザー産婦人科医院(北九州市)▽京野アートクリニック(仙台市)▽広島HARTクリニック(広島市)▽英ウィメンズクリニック(神戸市)▽醍醐渡辺クリニック(京都市)─で実施。

 OD―NET=078(335)1876(午前10時~午後3時、土日祝日は休み)。ファクス=078(335)1877。

=2013/06/15付 西日本新聞朝刊=

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